第二十七話 いつもと違う。

 囂々と噴煙が昇るラーズ火山火口入口。上空にアリスを停めて、ロープで下降していく。


「ハザードも来るのか?」

「ああ、今回はギルドの救出だからね。救出しなければいけない人間が多いから、人員も増やす」


 珍しくレスキューアームを装着したハザードと共にロープで下る。


「頼りになるのか? あんた運動神経悪そうだしなぁ」

「ひっでぇ。いつも酒場でエマ隊長から逃げ回る僕を見てるでしょう? 治癒魔法師でも多少は外で活動できるだけの運動はしてるの」


 確かに、彼は元冒険者と言われるエマの全力疾走から逃げていた。だが、普段の頼

りない面ばかり見ているのでどうも信用できない。


「つーか、あんたも杖持っていくのな」

「ああ……これか……」


 ハザードは腰に備えた杖を触る。先端に宝玉が付いている上位魔法使いが使う杖だ。


「使わないなら、使わない方がいいんだろうけどね……」

「……杖だからいいだろう」


 剣や槍を、ほかの者を傷つけるものを使いたくないのならわかるが、杖なら別に攻撃魔法を使わなければ傷つけないし、別にいいだろうとハルは思った。


「そうなんだけどね」

「無駄口を叩かないでとっとと降りてこい」

「「ハイ」」


 すでに地上に降り立ったメイディにせかされ、急いでハルとハザードが地上に降りる。

 エマがマップを開き、岩の隙間から白い煙が上がる岩盤を見渡す。


「ここはまだいわゆる表面で外層って書いてあるわね。ボスフロアにはあそこから行かなければダメみたい」


 そう言って、洞窟を指さす。

 洞窟の中は暗いが、マグマの吹き溜まりが至る場所に見え、見るからに危険そうだ。


「あそこを行くんですか?」

「行くんです」

「めっちゃ強い魔物がいそうだ……魔物よけは? いつもは現地に生えてる植物を使ってやるじゃないですか」


 魔物に食べられないために嫌いな匂いの出している植物をエマは見分け、それをちぎって煙を絶たせる方法を主に使っている。今回もそうやるのかと思ったが、火口の中だ。植物ナンテ当然一つも生えていない。


「あまり使いたくはないんだけど、今回は仕方ないわね。ハザード君」

「了解」


 ハザードが杖の宝玉に触れると、宝玉の中で魔法陣が描かれる。


「『レッド・ルーラー』」


 すると、ハザードの周囲から赤いバリアが広がり、ハルたちを包む。


「これは?」

「魔法の魔物よけ。これを張っている限り魔物は僕たちを認識できない」


 ハザードが自信ありげに答えるが、こんなものがあるんだったら……、


「えぇ……じゃあいつものあの煙は必要ないじゃん。ハザードいっつも付いて来てくれよ。そしたら楽なのに」

「馬鹿言ってないの」


 エマがバリアの表面を指さす。バリアは赤く輝き続けていた。


「魔物には見つからないけど、周りを赤いフィルターで包むのよ。こっちが要救助者を見つけらられない可能性が高くなるでしょ」

「あ」


 そっか。人を探しに来ているのに、自分の目を曇らせているようなものだ。だから、あまり救助騎士隊には有効とは言えない魔法だ。


「今回は救助者がボスフロアにいるってわかってるからね。だから、これで行くけど、普段は使わない方がいいんだ。誰かが倒れていて見逃したら、大変なことになるからね」


 そう、ハザードは自嘲気味に笑った。

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