第二十六話 ラース火山へ
完全装備を終えて、ソラトビクジラのアリスに乗って現地へと向かう。
「今回はどこに向かうんだ?」
エアロに尋ねる。彼女は角笛が吹かれ、アリスの鳴き声と手綱を握る感触からどこで角笛が吹かれたかを理解できるのだ。
エアロは手綱を握りしめ、指を舐めて風に当てながら答えた。
「進路はラーズ火山」
「ラーズ火山て……」
ハザードと顔を見合わせる。彼も嫌な予感を感じているようで頷き返した。
「誰が吹いたかってわからないか?」
「う~ん、私には方角しかわからないな」
「それについては私が答えるわ」
空の上で風が吹きすさぶ中だというのに、書類を手で抑えながらエマは目を通していた。
「風が強いのによく読めますね」
「これも仕事。冒険申請書を読んでるの」
「申請書って、ギルドや個人がダンジョンに入るときに王国側に提出するやつですよね」
昔はそれを見て、帰還予定時刻に帰ってこなかったら救助騎士隊が捜索に出ていたらしい。だが、今はもう角笛が開発されたので提出しなくても救助は来る、と提出しない冒険者も多いと聞く。
「でも角笛があるからって、みんながみんな出してるわけじゃないっていうじゃないですか」
「個人で潜る冒険者はね。だけど、ギルドは違う。ギルドは提出義務がちゃんと設けられていて、提出しなかったら罰せられるようになってるの。そして、ラーズ火山に冒険申請しているギルドはひとつだけ」
「『グロッド』……」
「そう」
エマは顔を上げて、書類を丸めて手のアタッチメントの中に収納する。どう見ても入るようなサイズじゃないのだが、縮小魔法を使って書類のサイズを小さくしているらしい。
「そして、吹かれた場所は火口の深層。ボスフロアよ」
「ボス部屋か……」
ボス部屋と言っても部屋というわけではない、ボスがいる一角がそう呼ばれているという話で、多くは遺跡や城のような建造物の奥深くなので昔はボス部屋と呼ばれていた。だがそれだと今回のような自然でできたダンジョンの場合は部屋というものは当てはまらないため、フロアと意味の広い言葉が使われるようになった。
「じゃあ、トリプルヘッドドラゴンにやられたってわけですか」
「そうでしょうね。そうじゃないとおかしい。そこまで想定外の事態は起きて欲しくない」
いつものような余裕の笑みはなく、エマはまっすぐ前を見つめていた。
「……レイス、ファイ。待ってろよ。今行くからな」
「その二人って、知り合い?」
「ええ……遠征に参加しているみたいで、ファイは大丈夫でしょうけど、レイスは攻撃魔法が使えないみたいで死んでるかもしれません」
「そう、心配ね」
「ええ、ひどい目にあってトラウマになっていなければいいですけど」
死んでも生き返るのだから、肉体的な問題はこの世界ではないと言っていいだろう。だから、問題はメンタル面だ。肉体は無敵だと言っても精神に強い衝撃を与えられれば脆弱な心はもろく崩れてしまう。
「それだけじゃない」
「え?」
「…………」
エマは剣の柄を強く握りしめた。
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