第二十三話 彼女たちの不在
夜になり、救助騎士隊の任務から解放されたハルはいつも通り、リペアハート邸へと向かった。
チーンと呼びだしのベルを鳴らす。
「……あれ?」
いつもだと中から二人が出てくるはずなのに、家の中から反応はない。
少し回って窓から中を覗き見てみるが、人の気配はなかった。
「お、何やってるの? ハル君」
そこに丁度通りかかったハザードが声をかける。
「い、いや、リペアハート姉妹に用があったんですけど、今日は留守みたいで……」
「ハル君知らないのか? 『グロッド』は今日から大規模な遠征に出ているよ」
「遠征? どこに?」
「ラーズ火山だ」
「ラーズ火山? あんな危険な場所に? 強い魔物はうじゃうじゃいるし、何より深層のボス。トリプルヘッドドラゴンを見て生きて帰ってきたものはいないって」
「だからだって『グロッド』の強さを証明するんだとさ。トリプルヘッドドラゴンの頭を持って帰って、『グロッド』の地位を確かなものにするんだと」
「どうしてそんな必要が……」
そんな危険を冒すなんて愚の骨頂としか思えない。自分から死にに行ってるようなものだ。
「『グロッド』の団長、トーマスは最近就任したばかりで、まだ他のギルドから舐められてんだよ。それを潰すためにってさ」
「おいおい、だったら一人で行けばいいだろ。自分の名誉のためにあの二人が危険になることなんて」
「それに、ファイ・リペアハートの存在もでかいんだぜ? 彼女が強すぎるから、トリプルヘッドドラゴンも倒せるだろうって算段らしい」
「マジで?」
彼女と喧嘩になったことはあっても、ガチで戦ったことはない。
強い強いとは聞いていたが、そこまで強いとは思いもよらなかった。
ハザードは笑ってハルの肩に手を回した。
「だから、安心しろって、きっと彼女たちは帰ってくる。それに、いざとなったら、俺たちの出番、だろ?」
ハザードはウィンクをして同意を求めるが、ハルは不安で顔を曇らせる。
「だろ、って言われても、ラーズ火山なんて入ったら俺たちは死んじゃうよ」
「俺たちは死んじゃうって、確かに俺なんかは死んじゃいそうだけど、お前は大丈夫だろ? 『アダプテーション』を使えるんだから。あれを使えばマグマの中とかでも入っていけるじゃないか」
「そりゃそうなんだけど……モンスターとかいるじゃん」
「ああ、もう心配しても仕方がないだろ、今日は飲もう!」
ハザードに引きずられてハルは酒場へと連行される。
「今日はって、いっつも飲んでんじゃん! それに俺は金欠なんだよ!」
「明日は給料日だぜ。今日は俺がおごってやるから、明日返せな」
「あ」
そういえばそうだった。じゃあ、もうリペアハート姉妹の家に行く必然性もなくなったということだ。
少し寂しいな。
○ ○ 〇
三日過ぎた。
給料も入り、リペアハート姉妹の家に無理に行くこともできなくなったのだが、ハルは足しげく毎日通っていた。
今日こそ帰っていないかなとチャイムを鳴らして窓から中を見ても、やはり帰っていない。そんな日々が続くうちにだんだんと不安が増してきた。
彼女たちは大丈夫なのだろうか?
「……いや、大丈夫か。俺たちが出動してないんだもん。何かあったら角笛が吹かれて、すぐに救助に向かうし、それに……この世界には蘇生魔法があるんだから、どうにでもなる」
そう考えれば、楽だ。
たとえ死のうが、教会に行けば元通りなのだ。死んでしまうとそれっきりの現実世界よりははるかにいい世界かもしれない。そういう意味で考えれば、この世界は医療ははるかに進歩していると言っていいだろう。
「うん、大丈夫。二人は大丈夫だ」
そう自分に言い聞かせ、リペアハート邸を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます