第十八話 『グロッド』リーダー・トーマス

 救助騎士隊の任務が終った飲み会に参加し、先日気になったことをハザードに尋ねる。


「『グロッド』に知り合い? いないいない? そこ厳しいもの」


 手を振って否定するハザード。

 レイスが大丈夫か心配になり、内情を探ろうろうとするが、彼は知らなかったようだ。ジェンシー隊で一番情報通っぽいハザードが知らないのなら、他にも知っていそうな人間はもういない。実際はエマの方が知っているのだろうが、もう泥酔して眠り、床に転がっている。ついでにエアロも酔いつぶれて転がっている。


「この間、知り合いの女の子が首にされるとかされないとかそんなな話をしててさ。しかも他に知り合いを作るなって、滅茶苦茶大変そうだったんだ」

「あぁ……そういうところなんだよなぁ……あそこって、お前が見た通りだよ。あそこは厳しいよ。それにあんまりいい噂も聞かない」

「さっき知らないって」


 指を立ててチッチッチと振るハザード。


「噂程度さ。子猫ちゃんと話すにはいろんな情報を知っておく必要があるからね」

「さいですか……」

「あそこは優秀な人間がたくさんいるけど、ちょっとでも劣っていると思われるとすぐに切り捨てられるって話だ。それに団長の一存で全てが決まっているから、足の引っ張り合いが激しいらしい」

「団長の一存で足を引っ張るってどうして?」


 何故それが足の引っ張り合いにつながるんだろう?


「団長に気に入られようと、裏で工作するんだよ。権力が団長に集中して、他に管理する人間がいないから、どうしても監視の目が行き届かないところで好き放題する輩が現れる。悪い噂を流して好感度を下げたり、武器を隠して出動を遅らせたりな」

「姑息だなぁ。あんな大きなギルドがそんな小ズルいことをやるのか? 優秀な人間しかいないんだろ?」

「そういうところだからこそ、悪知恵が働く人間が幅を利かせるんだよ。良かったな、ジェンシー隊は小規模で知恵が働く人間は隊長とメイディちゃんぐらいだ」

「何だと~‼ エアロちゃんもだぞ!」


 手を振り上げ抗議するエアロ。先ほどまで寝ていたはずなのだが、耳ざとい娘だ。まぁ抗議している間もしっかりとその両目は閉じられていたが。


「悪知恵ねぇ……あの子にはそんなのあるとは思えないな」

「おや、俺ですら知り合いがいないっていうのに、ハル君は『グロッド』の子に知り合いが、気になってるの?」


 ぐいぐいと迫るハザード。まだ子としか言っていないのに、完全に女の子だと決めつけている。まぁ、その通りなのだが。


「ちょっとしたことで気になった魔法使いの女の子がいるんだよ。だけど、団長のトーマスとかいうやつに役立たずみたいなことを言われてて……心配でさ」

「ああ、じゃあ、なるべく早く辞めさせた方がいいな」


 グイッと酒を喉に通し、ハザードが酒樽をテーブルの上に叩きつけた。


「トーマス・ラモンは切ると言った人間は確実に切り捨てる。それがどんな場所でも、状況でもだ」

「どういうこと?」

「いるんだよ。囮に使われて、助からなかったメンバーが。ダンジョンのど真ん中でモンスターに一人嬲り殺されて、他の団員は悠々と外に脱出した。そう言うことも平気でやる連中だってことさ」

「………」


 ゾッとした。

 あの金髪はそこまで冷酷なことを平気でやる男なのか。

 考え込むハルをよそに、ハザードが立ち上がる。


「では、そろそろ帰ろうか。ハル君、1500ゴールドね」


 飲み代を請求される。経費で落とせばいいのにと毎回思いながら財布を取り出す。


「あれ……」

「どうしたの?」

「もう一万ゴールドしかない……」

「充分じゃないか」

「俺の全財産ですよ?」

「…………」


 ハザードが絶句する。


「給料日まであと十日以上あるし、今回はおごってくれません?」


 ハザードに微笑みかけ、


「ダメ」


 彼も笑顔で断った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る