第十七話 『グロッド』
鋭い男の声が響き、店から金髪の男が出てきた。
「団長!」
ファイに吹き飛ばされた大男が姿勢を正し、ファイとレイスも同様に大人しく横に並び、団長と呼ばれた金髪の男を仰ぎ見る。
「ファイ・リペアハート。君は気性が激しすぎる。次に喧嘩騒ぎを起こせば、我がギルド、『グロッド』から出て行ってもらう。君の戦闘能力は優秀だが、生活態度に著しい問題がある。いい加減に改善しろ。足を引っ張る人間は我が『グロッド』には必要ない」
「でも、トーマスよォ……」
「いい訳をするな。いい訳をする人間も、我が『グロッド』には必要ない」
「…………」
抗議しようとしたファイを一括して黙らせた。
この気性の激しい女を黙らせるとは、このトーマスという人間は相当の実力者らしい。
「ん? いや、『グロッド』? 『グロッド』っていえば、この国で一番の勢力を持つ冒険者ギルドじゃないか⁉ あんたら『グロッド』のメンバーだったのか⁉」
リペアハート姉妹はハルの問いに頷きで答える。
冒険者ギルド『グロッド』。オーブ王国で最も優秀な人材をそろえたギルドで、彼らによってもたらされた財は大きい、未知なる大陸を発見したり、誰も倒せなかった巨大モンスターを倒したり、それによって農民は新たな土地を開墾でき、武器職人は未知の材料を使って新しい武器を作った。
彼らがこの国を豊かにしてきたと言っても過言ではない。
「君は……?」
初めてハルの存在に気が付いたかのように、ハルを見て目を細めるトーマス。
「あ、ああ、俺はハル・サバイ。この、レイス・リペアハートの友達だ」
「ふざけるな、認めない。あんたはお姉ちゃんの友達じゃない」
嫌そうにファイは吐き捨て、レイスがとがめるように彼女の服を引っ張る。
「今はそう言うことにしておけよ! 説明が面倒になるだろう」
「レイスの友人? 君は他のギルドの人間だろう。レイス、他のギルドと接触するなと言及したはずだ。他のギルドに心を許す人間も、我が『グロッド』には必要がない」
滅茶苦茶な理屈を持ち出すトーマスに、絶句するレイス。
「そんな……!」
「お、おい、ちょっと待てよ! 俺はギルドの人間じゃない。そもそも、冒険者でも、ないしな……」
あんまりな物言いに思わず口を挟んだが、冒険者しかいないこの場で自分は冒険者ではないというのは少し答える。ここにいる人間は皆冒険者試験に合格し、落ちているのは自分一人だけなのだ、そう思うと惨めでたまらない。
「俺は、騎士隊だ。救助騎士隊に所属してる。ギルドどころか、冒険者でも何でもないよ……」
「救助騎士隊、だと?」
トーマスが眉を顰める。
「プッ」
そして、大男が耐えられないと言ったように噴き出した。
「ハイエナ隊か、ご苦労なことだ」
トーマスの声には明らかに侮蔑の色が含まれていた。
こちらを完全に見下していた。
そして興味がなくなったようにハルの横を通り抜け、大男の前に立つ。
「ヒゾン、君も下手に挑発をするな。君に至っては能力も平均的で、問題を起こす。挽回しないと完全なお荷物だぞ。そんな人間は我が『グロッド』には必要ない」
「へ、へぇ! すみません団長!」
汗をダラダラ垂らしながら、背筋を伸ばす大男、ヒゾン。
「が、それも君よりはまともだがな。レイス・リペアハート」
「…………」
じろりと睨みつけられ、蛇に睨まれた蛙のように縮こまるレイス。
「君は問題こそ起こさない。が、役に立つわけでもない。優秀な攻撃魔法を持ちながら、本番では緊張して使えない。ギルドに入って一週間だが、君はいまだに何もしていない。筋力もないからヒゾンのような荷物持ちもできない。次に敵を前に魔法が使えなかったら、君を切る。わかったな」
「……はい」
ポンと、レイスの肩に手を乗せるトーマス。
ウチの救助騎士隊も大変だけど、この『グロッド』よりはまともなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます