第十六話 レイス・リペアハートとの再会
救助騎士隊の生活はハードワークそのものだった。
笛が吹かれるたびに現地へ赴いて、要救助者であるケガ人、もといほとんどの場合が死体でそれを運ぶ毎日。
その仕事はまさに『死体引き』そのものだった。
ある時は砂漠へ、ある時は海のど真ん中へ、ある時は魔物がうごめくダンジョンの奥深くへ。魔物から必死に逃げて死体に接触し、それを街まで引く毎日。それが本当に毎日続いて、ハルの精神は段々すり減った。
「村は、村はまだかァァァァァ‼ も、もう嫌だ~‼」
荒野の真ん中で死体を引きずりながら叫ぶが、
「うるさい、とっとと運べ」
前で死体を引くメイディに罵倒されるだけだった。
彼女は不満一つ言わずに、黙々と村を目指して命を失った冒険者の死体を引き続ける。額に汗をかきながら。
「………くそっ」
そんな顔を見てしまうと、とりあえず今回こそはやり遂げようと思ってしまう。
ハルは足に力を入れて、荒野を一歩一歩また歩き始めた。
○ ○ 〇
だが、仕事を続けるかどうかは別問題だ。
一日の救助騎士隊としての任務が終り、飲み会を断り、一人トボトボと家路へ着く。
初日こそ拉致されて、エマの家にぶち込まれ、しばらく逃げ出さないようにと騎士隊詰所にハザードと共に寝泊まりすることになったが、一週間後には自宅に帰るのも許された。元々寝泊まりするところじゃないので体の節々が痛み出したのと、一週間見てみて多分逃げ出さないだろうとエマが判断したためだ。「そんな度胸もないだろう」とは許しを出した時の彼女の言葉。もしかして舐められているのだろうか。
「あ~ぁ、仕事きつい……生前とは違う体力勝負で滅茶苦茶きつい……やめようかなぁ~……」
独り言を言いながら歩くいているハル。
そんな時、バァン、と突然道すがらの酒場の扉が開く。
「え?」
「ぐわあああああ!」
酒場から大男が飛んできて通りに倒れる。
「てめぇ! もう一回言ってみろ! 誰が雑魚だって⁉」
そして酒場の中から、小柄な女の子が出てくる。チャイニーズドレスのようなぴっちりした衣装をまとい、頬に軽く生傷があるその娘は、子供の頃近所にいた男の子に混じって遊ぶ女の子そのものといった感じだった。
あれ、でもあの顔、確か見たことがある……?
ハルが首をひねっていると、大男が首を押さえながら立ち上がる。
「何度でも言ってやるよ。てめえの姉はいざというときに役に立たないとんだ厄介者だって。てめえらのせいで今日のダンジョン攻略は失敗したんだぞ、わかってんのか!」
「レイスお姉ちゃんの悪口を言うな!」
レイス?
聞き覚えのある名前を言いながら激高し、チャイナドレスの女の子は果敢にも大男に殴り掛かっていく。
「おいおい、あんたら、何があったか知らないけど、喧嘩は」
女の子の方が心配になり、仲裁に入る。
だが、大男は一方的に女の子にボコボコにされており、ハルは女の子の肩を掴み男から引きはがす。
「何だよ、お前! 放せ! 部外者はすっこんでろ!」
「目の前で喧嘩されてたらそんなわけにも……」
この娘の顔間近で見たら、さらに既視感が強まった。レイスの名前を出していたし、この娘は恐らく……、
「君、レイス・リペアハートの妹?」
「ファイ!」
店の中から、レイス・リペアハートが飛び出して駆け寄る。
「ファイ?」
「……‼」
ファイと呼ばれた少女はハルの手を振り払いレイスの傍へ。
「あれ? あなたは確か……川で私を助けてくれた人」
「あ、ああ、一週間ぶり。ハル・サバイだ。レイス・リペアハートさん」
「……二人知り合い?」
「言ったじゃない、この間川で溺れた時助けてくれた男の人がいるって」
「ああ……」
いぶかし気に細められたファイの目が開き、フンと鼻を鳴らしてハルを見下すようにあごを突き出した。
「どうもウチの姉が世話になりました。変態さん」
「あ? 俺のどこが変態だって? 初対面の人間に変態扱いされるほど落ちぶれているつもりはないんだが⁉」
いきなり喧嘩腰のファイにカチンときて、睨みつける。
ファイの態度に、レイスは慌てる。
「ちょ、ちょっと何を言ってるのよファイ!」
「だって、この男が水の中で、見えないのをいいことに、お姉ちゃんの体をまさぐってたんでしょう? とんだ変態じゃない!」
「救助活動! 手で触れずに助けられるわけないだろう! なんだ、妹の方は頭は筋肉でできてるみたいだな!」
「妹の方って呼ばないで! あたしにはファイ・リペアハートっていう……今、頭が何でできてるって言った⁉」
ハルへ向けて殴り掛かるファイ。予想していたのか、すぐに間に割って入りファイの体を押し留めるレイス。
「ちょっと、ファイ。いい加減にしてよ! 喧嘩はもうよして! そんなんだとギルドから除名処分を受けちゃうよ!」
「その通りだ」
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