第十一話 ソラトビクジラの騎手と救命魔法師

 空飛ぶクジラの上に乗って、要救助者のいる場所まで向かう。

 ハルは空の上で凍えていたが、まだましな方で、エマとメイディはもっと寒そうな格好をしていた。

 マントを羽織り、風にはためかされて手足が露出していた。

 マントの下はどんな格好かわからないが、生足とつややかな手がチラチラとマントの下から除く光景は青少年の下半身に悪いだろうと思う。


「あの、寒くないんすか?」


 つーか、恥ずかしくないんですか? 


「もう慣れた」

「うん、動きやすいし、救助活動に必要な加護もかかってるし。必要なのよ」

「そですか、つーか……あの人たち、誰?」


 アリスの上に乗っているのは三人だけではなかった。

 アリスの首にはめられた手綱を握る髪がサイドに跳ねている少女と、白衣を着た軽そうな男がニヤニヤした顔をしてハルを見つめていた。


「むむ、このエアロちゃんを知らないとは、貴様はモグリだな? こんなにかわいくて賢くて、美人聡明なエアロ・クラッシュちゃんを知らないなんて」

「モグリってなんのモグリだよ。つーか、美人聡明と可愛くて賢いって若干意味かぶってるぞ」


 手綱を握ったまま、はねっけの少女が答え、


「いや~、君今日から入った新人? 俺の名前はハザード・グラント。この部隊の救命魔法師だ。嬉しいよ。女ばかりで最初はハーレムって喜んでいたんだけど、段々肩身が狭くなってきてね。今度一緒にナンパに行こうぜ!」

「は、ハァ、どうもよろしく……」


 白衣の男はグッと親指を突き出した。


「個々の全員で救助騎士隊のメンバーは全員よ。これで顔合わせは済んだわね」


 エマが頷き、


「グラマラスで聡明な隊長、エマ・ジェンシー」


 自分を指さし、ポーズを決める。


「無口でしっかりものの隊員、メイディ・キャスター」


 メイディはジッと地上に目を落とし、


「ソラトビクジラのアリスを駆る騎手、エアロ・クラッシュ」


 エアロは手綱を握ったまま、「えへっ」と顔の前に横ピースを持っていきポーズを決めた。


「そして、要救助者に応急措置をする救命魔法師、ハザード・グラント。以上のメンバーが救助騎士隊のメンバーよ」


 そして、ハザードとエアロがエマの横に並び、決めポーズをする。


「は、はぁ……」

「君にはメイディや私と同じように救助騎士として活動してもらいます」

「救助騎士?」

「うん、動けなくなった冒険者のところに行って、このアリスまで運ぶか、街まで連れていくの」

「動けなくなったって、足を怪我していてたり、気絶してたり、そういう人を運ぶんですか? 体力仕事はあまり自信ないんですけど……」

「それだけじゃないわ。というか、主に……」

「目的地に着いたよ」


 エマが何か言いかけたのを遮って、エアロがアリスを止める。


「そう、それじゃあ行くわよ。準備はいい?」


 エマはメイディに同意を求め、メイディは頷き、二人はマントをはぎ取った。


「な、なんて格好を⁉」


 マントの下の二人の格好は、はっきりいってスクール水着だった。紺色のぴっちりした薄い布。身体を覆っているのはそれだけで、手足に金属のアタッチメントがつけられている程度で太ももや二の腕は丸出しだ。


 顔を真っ赤にするハルにエマは苦笑し、メイディは無視して準備を続ける。


「これが一番救助活動に最適な鎧なの。レスキューアームはオーブ王国が開発した最先端魔法技術で作られた超高性能救急鎧。実際動き易くていいわよ」

「いや、それでも……か、完全にスク水じゃあないですか……!」


 顔を手で覆うが指の隙間からばっちりと二人の肢体を覗き見る。


「スク水? 何それ。いいから行くわよ」


 メイディは呆れながらも、ハルへとロープを渡す。


「これどう使うの?」


 ロープをまじまじと見る。ロープの先はアリスの口元へと伸び、手綱に括りつけられていた。


「それを伝って下に降りるの。当然でしょ」

「ちょ、ま……」


 メイディはハルの返事も聞かずにとっととロープを伝って地上へと降りて行ってしまう。


「ハル君は初めてだから、私たちについてくるだけでいいわよ。別に今日、すぐに君に仕事をしてもらおうなんて、思ってないから」


 エマは安心させるように笑うが、


「いや、そうじゃなくて、二人共剣を持ってないじゃないですか⁉ 下は王国の外でしょう? なら魔物がいる。魔物がいる場所に剣も持たずに危険なんじゃあないですか?」


 ハルは一応自前の剣を腰に下げている。自衛用の短く安い鉄の剣だが、何も持っていないよりはいい。

 騎士宿舎にこの安物よりもいいものはないかと探したものだが、宿舎には剣は一本もなく、エマとメイディもスクール水着に似た救助鎧というのを身に着けているだけで、騎士に必須な剣を腰に下げていなかった。


「ああ、私たちには必要ないから」


 エマはロープを伝って降りて行ってしまった。


「そんな⁉ 魔物と遭遇したら、って聞いてくださいよ!」

「そういう君はとっとと行ってくださいよ」


 背中をハザードに蹴られ、アリスの背中を転がり落ちていく。


「殺す気かあぁぁぁぁ…………!」


 何とかロープを掴み、地上へと落下するように降下する。

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