第十話 初仕事へ

 ハルには救急騎士隊詰所で規則書類に目を通している間、エマとメイディは外で装備の点検をしていた。


「………」

「お~、よしよし、ボーはいい子だねぇ~」


 救助道具———体を固定するハーネスベルトの金具をメイディ点検している間、エマはオータム犬のボーを撫で続けている。

 イライラした様子のメイディはベルトを地面に置いた。


「隊長!」

「あ、はい、やるやる。ごめんね、怒らないで~……」


 ボーを愛でるのをやめてハーネスベルトの点検をエマも始める。


「それもですけど、どういうつもりですか?」

「ん~……何がぁ?」

「どうしてあんな男を救助騎士隊に入れたんですか?」


 メイディの目は宿舎の、その中にいるハルへと向けられていた。


「さっきハル君がいる前で言ったでしょ? 人手不足に即戦力の能力、それにウチにエースのお墨付き♪」


 ウインクしてメイディを指さすエマ。


「だから、あれはちょっと使えそうな人がいるって言っただけじゃないですか! そのちょっとのことでいきなり会いに行ってそのまま入隊させるなんて、滅茶苦茶が過ぎます。それに、不合格って言ったじゃないですか。だけど、入隊させておいて、さっきはべた褒め。もしかして、適当ですか? 全部適当に言ってるんですか?」


 疑惑の目を向けられる。

 エマはメイディからこんな目を向けられたときはいつもはたじろいで逃げ出すか、冗談めかして苦笑いし、必死に言い訳する。

 が、この時ばかりは平然とメイディを見返し、


「ん~ん、ハル君は不合格だよ。救助騎士隊で働くに値しない。人格面ではまだね」

「じゃあ入隊は」

「だから仮、しばらく様子を見てみるの。今のところはうちの隊には必要ないけど、人間って変わるじゃない?」


 にこっと微笑みかけるが、メイディの表情は厳しい。


「変わってから入れてくださいよ」

「まぁまぁ、そう言わずにそれに誰かに似てるのよねぇ~」

「誰ですか? エアロ? それとも、ハザード?」

「ん~誰かなぁ~?」


 にこやかに笑ったまま答えようとしないエマに呆れながら、メイディはハーネスベルトの整備に戻った。


 ルオオオオオオォォォォォォォォォォォォンッッッ‼


 突如、上空を飛ぶクジラ、アリスが雄叫びを上げた。


「今のは何だ⁉」


 声に驚いたハルが宿舎から飛び出た。


「仕事よ。どこかで角笛が吹かれた」

「角笛? それが吹かれたらどうなるんだ?」

「助けが行く」

「助けって?」


 ハルの横を通り過ぎながら、メイディとエマは装備を身に付けていく。


「私たちよ」

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