第九話 入隊

「『レスキューナイツ』じゃなくて、ジェンシー隊」

「も~……! せっかく決まったのに、メイディはすぐそうやって茶々をいれる!」


 かっこよく決めていたエマの頬が膨らみ、メイディに向かってプリプリと怒りだす。


「俺が、必要……?」

「それに女の子が王都の川で溺れているときに、メイディより先に川に入ったんだって? あんな危険な場所に躊躇せずに入れるのは、才能って言ってもいいわよ」


 メイディより先に、ってことはやっぱり助けに川に入る直前に聞こえたあの女の人の声はメイディの声だったのか。

 じゃあ、俺がレイスを発見したとき、すぐそばにメイディはいたんだ。


「レイスさんが溺れているのを見つけた時、私はどうやって助けるのか色々考えていた。水魔法を使おうか、身体強化魔法を使おうか。そういう選択肢を選んでいる間にあなたは川の中に飛び込んでいった。『アダプテーション』を使えるからこその行動だったんだろうけど、私より先に飛び込んだのは素直に評価する」


 メイディに初めて褒められた。彼女は照れもなく、真剣な目でハルを見つめて伝えた。認めらた気がして、ハルは若干誇らしくなる。


「あぁあれば、要救助者を見つけて考えると手遅れになる可能性が高いから、あらかじめシミュレーションしておいて……いざその時がきたら考えずに行動できるようにっていう教え思い出して、ね……まぁ、ドキュメンタリー番組のレスキュー隊隊長の言葉なんだけどね」

「?」


 どうせ通じないだろうと現実世界での出来事を話す。当然、メイディは頭に?マークを浮かべて首を傾げた。


「ああ、それも入隊理由の一つ。君結構面白いことを言うじゃない。自分が生まれ変わってその前の記憶があるって」

「どう考えても、危ない人だと思うけど?」

「危ない言うな。まぁ、はたから見たらそんな感じに見えるだろうけど」

「別にいいわよ。そういう人一人ぐらい欲しかったし。ここの人間みんな優等生ばっかりで、一人ぐらいぶっ飛んだ人が欲しかったのよね」

「色物枠じゃん……」


 そんな理由で求められても嬉しくない。


「じゃあ、色々手続きも済ませたし、これからこの二階に住んでもらうから」

「え⁉ いきなりそんなこと言われても困るんすけど!」

「だって家に戻したらそのまま逃げ出しそうだし」

「何? 俺、何か罪を犯したの?」

「罪は犯してない。だけど、ウチも人材不足だから~、頼むよ~、ね。お願い」


 エマはすりすりとハルに近寄り、手を取ると胸を押し付けてきた。


「あ、あの、お胸が当たってますよ……」

「大丈夫、当ててるんだから存分に感触を楽しんで♪」


 実は生前、女性に縁がなく、こういった色仕掛けに全く耐性がない。女の人の胸の感触というのも初めて味わう。

 顔を真っ赤にしつつ、そのままエマを振りほどこうとしないハルに、ジト目を向ける人物がいる。


「…………」


 勿論、メイディ・キャスターだ。彼女はまるで汚物を見るような目でエマの胸をガン見しているハルを見ていた。


「ねぇ~、入隊してよ~、いいでしょ~……? ダメ?」


 上目遣いで小首を傾げられた。

 そんな目を向けられたら、俺はもう、俺はもう……!


「入ります! 『レスキューナイツ』として粉骨砕身頑張らせていただきます‼」


 ハルの元気のいい返事に、メイディの眉間に更にしわが寄った。

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