第七話 『レスキューナイツ』

 エマの家を後にして、ハルたちはある場所へと向かっていた。ハルは何度かエマにどこに行くのか聞いたが、彼女は笑うだけで教えてくれなかった。ついでにメイディにも聞いてみたが、彼女も殺気をはらんだ目を向けられるだけで全く教えてくれなかった。

 そして、彼らが向かった先は、昨日来た場所。


「ここって、オーブ城じゃないですか……」


 荘厳な石造りの城。オーブ王城の前に辿り着く。


「もしかしてここですか? そういえば隊とか入隊とか。もしかしてエマさんたち軍人?」


 城には常にオーブ軍騎士隊がおり、訓練に励んでいる。


「騎士になるのか……訓練は厳しいし、あんまり活躍できる場面は少なそうだけど。まぁ、冒険者になれなかった俺の今後の居場所としてはいい落としどころなのかもな」


 ここに来ると言うことはそうとしか考えられないが、エマは苦笑し、メイディは呆れたようにため息を吐いた。


「う~ん、まぁ、一応、オーブ軍には所属してるかな?」

「一応って、なんたら……エマ・ジェンシーだからジェンシー隊? があるんでしょ? そこに俺入隊させられたんじゃないんですか?」

「そう、その通り。よくわかったね」


 偉い偉いと頭を撫でてくれるエマ。


「いや、そんなの誰でもわかりますよ。だからあの城の中で訓練とかするんでしょ?」

「う~ん……」


 何故そこで言葉を濁す。


「ハァ~、エマさん、もったいぶってないで行きますよ」


 呆れはてたようにメイディがずんずんと歩いていく。

 慌ててメイディの後に続くと、城をぐるっと一周した。


「あれ、城の裏に回っちゃったけど、中に入らないの?」

「中には、入らない。私たちの職場はここ」


 案内された先は、ぼろい小屋だった。


「職場?」


 戸惑うハルを置いて、メイディとエマは中へと入っていく。

 木製の小屋で、ところどころ腐って黒ずんでいる。 とても由緒ある騎士の務めどころだとは思えない。騎士の重要な足である馬小屋もないし、修練上のようなところもない。ただの木こりの小屋と言われればその通りに見える。

 変わったものと言えば、地面に刺さっている二本の杭。二つの杭にはそれぞれ鎖が繋がれており、


「ああ、犬か。秋田犬にそっくりだけど、こっちの世界ではオータムドッグっていうんだっけ?」


 ワンッ!


 繋がれた秋田犬、もといオータムドッグを撫でると、挨拶をするようにハルに向かって吠えた。

 片方には犬が繋がれている。なら、もう片方には何が繋がれているのだろうか。

 杭につながれた鎖は長く、天へ向かって伸びていた。


「うお、何だあれ?」


 空を見てハルは驚いた。

 

 上空を白い巨大なクジラが旋回していたのだ。


 こんなクジラがいるなんて今まで聞いたこともなかった。


「そういえば、城の近くに浮いているアドバルーンみたいなものをたまに見てたような気がする」


 オーブ王国王都で暮らしていると、王城に用事があることは一度や二度じゃない。

 その時にたまに白いアドバルーンを目撃したが、異世界にそんなものがあるわけがないから、飛んでいっていたシーツかなにかだと思っていた。


 クォォ~~~~ン………!


 上空から、鳴き声が響いた。


「鳴いた。クジラってクォォンって鳴くんだ……」

「何やってるの? 早く入ってきなさい」


 小屋の中のエマから急かされる。


「エマさん! 外のクジラっていったい何……」


 小屋の中に入るハル。小屋の外見は非常に粗末なものだったが、中は意外としっかりしていて驚いた。鉄の鎧と兜、それに装備を入れるリュックサックや、ダンジョンに入るときに必要なロープなど、冒険に必要そうな道具が所せましと部屋の中に置いてあった。


「クジラ? ああ、アリスの事? ソラトビクジラのアリスよ。私たちの大切な仕事仲間。仲よくしなさよ」

「ソラトビクジラ……? 仲間ってどういう意味です?」

「乗るのよ」

「あれに乗って……どこに行くんです?」


 空を飛ぶクジラが必要な騎士隊? 

 騎士隊は都の防衛の任務が主で、たまに戦争になったりするが……それでもほとんど必要なのは馬の場合が多い。空にいては弓に撃ち落とされてしまう。


「いろんな場所よ。ようこそ、ハル・サバイ君。ここが今日からあなたの職場、『救助騎士隊』。通称———『レスキューナイツ』よ」


 手を広げ、宣言するエマ。

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