第六話 新しい職場
ガンガンする頭を押さえながら目を覚ます。
「ん……いてぇ……飲みすぎた……」
昨日どうやって帰ったのか。いつ寝たのか全く覚えていない。
冒険者試験に落ちて、その後溺れている女の子を助けに行って、俺が助けたのに別の女の子の方が感謝されて、その女の子にたいしては恥ずかしくなって逃げるようにその場を去ったのは覚えているのだが、そこから先があいまいだ。酒場に言ったことは覚えているのだが。
あの一緒に助けに川に入った女の子。美人で可愛かったあの金髪の眼鏡っ娘。彼女の名前は何と言ったっけ。
確か、確か、メイディ……。
「メイディ、キャスター……だったかな……」
「んぅ……」
目を開くと、前に女の子の顔があった。薄い生地のパジャマで無防備に少し胸元を開け、下は下着だけはいて太ももをさらけ出していた。
そして、金髪の整った顔立ちの、今さっきまで考えていた……、
「メイディィィィィ~~~~~~~‼ キャスタァァァ~~~~~‼」
大声を上げて飛び上がる。
「ん……何、うるさい」
メイディ・キャスターが目をこすりながら起き上がる。
そして、ハルと目が合うなり、きょろきょろと周囲を確認する。
部屋の中、ベッドは一つで、さっきまでどうやらハルと同じベッドで寝ていたらしい。
状況確認終了。
そして、ハルとばっちり目を合わせると。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼ へんッッ……たい‼」
思いっきり、ハルの顔面を蹴り飛ばした。
「イッテェ、いきなり何すんだ!」
ベッドの上から吹き飛ばされ、顔を押さえながらメイディを睨みつける。
「こっちのセリフよ! 人の部屋に入り込んで、ベッドにもぐりこむなんて。どう見ても変態じゃない‼ もしかして、私に何かやらしいことをしたんじゃないでしょうね‼」
「してない、俺は無実だ‼」
「この状況で誰がその言葉を信じると思うの!」
「それでも俺はやってない」
有名邦画のタイトルをまさか自分でいう日が来るとは思わなかった。このままでは冤罪が認められてしまう。
誰か助けを、この状況を説明してくれる救世主を求めて扉を仰ぎ見る。
ハルの心の声に応えるかのように、扉が開かれた。
「ごっめ~ん……酔って間違ってメイディの部屋に入れちゃった。本当は私のベッドに置くつもりだったんだけど、間違えちゃった……」
両手を合わせて、申し訳なさそうな顔をした女の人が入ってきた。
「あ、あんたは昨日の! って、思いだそうとすると頭が……」
酔っ払いのお姉さんだった。
そうだ、思いだした。酒場で飲み続けていると彼女が話しかけてきて、話しかけてきて……そこからどんな話をしたのか、全く思い出せない。
「君は昨日酔いつぶれて倒れちゃったのよ? 覚えてない?」
「そういえば、そんなことがあったような……それで、どうしてメイディの、メイディさんの部屋にいるの?」
状況説明を求めたのに、お姉さんは首を傾げた。
「メイディの名前、知ってるんだ……教えたの?」
メイディを見ると彼女はハルを睨みつけた。
「昨日会った時に成り行きで。こんなことする男なら名前教えなかった」
「だから誤解だ。俺は悪くない!」
「へぇ~、良かった。意外と仲いいじゃない二人共」
「「良くない!」」
二人声がハモる。
良くない、二重の意味で良くはない。お姉さんの、この状況に作って良かったいう意味の良かったも、仲が良いというのも間違いだ。
「で、え~とお姉さん、どうして、メイディさんの部屋に俺がいるの……っていうか、もしかしてお姉さんはメイディさんのお姉さん?」
「違うわよ。私とメイディはただ一緒に住んでるだけ。彼女実家が遠くだから、私の家に居候しているの。そうそう、まだ名前教えてなかったわね。エマ・ジェンシーよ、よろしく」
そう言って、エマはハルに向かって手を伸ばす。
にこやかに笑って握手を求める今の彼女は昨日見た顔と全然違って、少し怖気づく。
「あ、どうも、ハル・サバイです」
頭を下げながら、エマの手を握る。
「知ってる。名前書いてくれたもの」
そう言って見せるのは、昨日酒場で無理やり欠かされた書類。下には酔ってヨレヨレになったハルの名前が書かれ、その上には……、
「入隊申請書?」
「おっと、そこまで。そこから先は後のお楽しみ♪」
ハルが全て読み終わる前にエマは背中に書類を隠す。
「お楽しみって、不安でたまらないんですけど……」
「エマさん! こんな人を入隊させるんですか⁉」
ずっと黙っていたメイディが抗議の声を上げる。
「そうよ。彼は性格には問題ありだったけど、能力面はあなたが保証……っていうか、あなたが推薦したんじゃない」
「あれは、ちょっと使えそうな人がいるって言っただけで……」
メイディが俯き、悔しそうに歯噛みする。
推薦した? メイディが?
「でもこんなレイプ魔だとは!」
「誰がレイプした‼ ふざけんな! 自分の穴に手っ突っ込んで膜確かめてみろ!」
あ、ちょっと言いすぎた。
案の定、メイディはジッとした目を向けてきた。
「最低」
短い言葉がざっくりとハルの胸を斬りつける。
エマは手をぱんっと叩き、
「さて、ハル君がメイディを襲ったかどうかは置いておいて」
「「置いておくな!」」
「ハル君にはこれからのことについて説明しましょうか」
戸惑うハルに、エマはにこやかに笑いかけた。
というか、成り行きで入隊することになったけど、これって拉致じゃないのか?
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