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―光鈴大学ー
大学構内に有る身障者用の駐車場。
希ちゃんは車を停めて、ホッとした顔をした。
慣れない運転に、やっぱり緊張していたようだ。
希ちゃんに申し訳なくて、思わず頭を下げる。
「やっと来たな。涼」
駐車場には田中や上戸が待っていてくれた。車のトランクから車椅子を取り出すと、助手席の横に設置する。
「大丈夫か? 涼、体支えるよ」
「……大丈夫。見てろ」
俺は助手席から、一人で車椅子に乗り移る。
「す、すげぇな。お前」
田中は鼻をグズグズ言わせ、涙ぐむ。
「……バーカ、俺を特別扱いするな」
「してねーし、お前は一学年下だが、俺達はずっと親友だからな」
「……面倒くさいけど、そういうことにしとくよ。上戸」
「俺は田中だ。上戸じゃねぇ」
田中は鼻の穴を広げ、向きになる。
「……そうだったな。武田」
「俺は武田じゃねぇ! つうか、希ちゃん、こいつ何なんだ? ミニコントしなくていーから」
希ちゃんは、俺達の会話を聞きながらクスクス笑った。
「涼!? お前、復学したのか!?」
大きな声に振り向くと、そこには……。
「……亀田達哉君だよ。明日香とは高校時代サッカーの大会でよく一緒になってたの。達哉君は私の幼なじみなんだ」
希ちゃんが耳元で俺に教えてくれた。
高身長で爽やかな好青年。イケメンでモデルみたいだ。
「亀田君」
「やだな、涼。他人行儀だな。亀田でいいよ。希、おはよう」
「おはよう。達哉君」
「涼の送迎してるんだって? 大変だろう。都合が悪い時があれば、俺が代わるからいつでも電話してくれ」
「……ありがとう。でも大丈夫」
希ちゃんは亀田にニッコリ微笑む。
『達哉君』か、幼なじみだからかな。でも、二人はいい雰囲気だ。
田中が俺の車椅子を押し、校庭を抜ける。
「田中、亀田は希ちゃんの恋人?」
「は? マジで言ってんの? 希ちゃんはお前の彼女だろう。亀田は希ちゃんの幼なじみで、希ちゃんに片想いしてるみたいだけどな」
「……亀田が片想い」
「そうだよ。あいつ、希ちゃんの紙飛行機拾ってもないのに、拾ったって嘘ついて希ちゃんとデートしたくらいなんだから。爽やかな獣だな」
「……爽やかな獣」
「気をつけろよ。人の弱みに付け込んで希ちゃんを狙ってっかも」
そんな風には見えなかった。
俺には亀田が良い奴にしか見えない。
過去は全部忘れてしまったのだから。俺達の間に何かトラブルがあったとしても、記憶はない。
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