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「……田中君ありがとう。明日香君ごめん。講義始まるから急ごう」
希ちゃんが俺の車椅子を押す。
学生が珍しいものを見るかのように、好奇な視線を俺に向けたが希ちゃんは全然気にも止めていない。
教室に入ると、遥ちゃんが俺達に手を振った。
「おはよう! 明日香君、希の運転でよくぞご無事で」
「やだ。遥、酷いな。私の運転怖くなかったよね?」
希ちゃんに同意を求められ、俺は苦笑い。
「クハハッ、明日香君正直だね。顔が引き攣ってるよ。窓際の席取ってあるんだ。こっちこっち」
開け放たれた窓から、隣接する光鈴女子高が見えた。その風景に、どこか懐かしさを感じた。
「田中君が前から十番目の窓側の席が明日香君の指定席だっていうから」
「……俺の指定席?」
「うん、想い出した? この窓から光鈴女子高を覗き見してたでしょう」
「……俺が覗き見!?」
遥ちゃんがクスクス笑ってる。
「希、どうやら図星みたいよ」
「やだ。遥、明日香君を虐めないで」
希ちゃんは窓から、隣接する光鈴女子高を見つめた。
「……あの校舎の窓から、友達が紙飛行機を飛ばしたんだよ」
「紙飛行機……」
頭がズキンと痛んだ。
白い紙飛行機が空中を飛ぶ様子が浮かんだ。
「……あ、明日香君!? 大丈夫? 無理に想い出さなくていいの。変なこと言ってごめんなさい」
紙飛行機って……
希ちゃんのノートに書いてあった話だよな。
あの紙飛行機は……
隣接する光鈴女子高から飛ばしたんだね。
「ごめん。想い出せない。でも……、あそこから飛ばしたんだね」
「うん」
まるで……
ノートに書かれたことを検証しているみたいだな。
でもそれはそれで……
楽しい。
◇
昼時間には、俺達がよく話をしていたフェンスの前に連れて行ってくれた。
懐かしさは感じるが、その当時の記憶はない。
――僅か一年前の出来事なのに……。
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