もしも願いが叶うなら
涼side
85
―二千十八年六月―
家の前でクラクションが二回鳴る。
「涼、希ちゃんが迎えに来てくれたよ。支度出来てる?」
着替えは瞬が手伝ってくれ、悠は鞄にテキストやノートを詰め込み、恵は俺に携帯電話の画像を見せながら、友達の名前を教えてくれる。
だから準備万端だ。
「……バッチリだよ」
言葉が上手く伝わらない時や長文は、ノートに書いて筆談をする。だから言語の不自由はない。
あるとすれば……
まだ歩行は完全ではなく、車椅子だということだ。
光鈴大学に復学するのは不可能ではないかと思われたが、大学の協力と友達のフォローで、俺は復学することが出来た。
そしてそれを支えてくれるのは、運転免許証を取得した希ちゃん。
兄弟やお袋の介助なしでも、車椅子から車の助手席に乗り移れるようになった。
車椅子はお袋が手際よく畳み、車のトランクに積み込む。
「希ちゃん。ありがとう。涼のこと宜しくお願いしますね」
「はい。おばさん、行ってきます」
希ちゃんはお袋や弟達に笑顔で手を振る。
「エンジンかけて、右よし、左よし、後方よし」
「クスッ、希ちゃん運転大丈夫?」
「大丈夫だよ。明日香君は安心して乗っていればいいの」
希ちゃんはハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
「……うわっ」
俺も免許取り立ての頃はこんな風に運転していたのかな……。
希ちゃんの母親を乗せて事故をしてしまった俺が、希ちゃんの運転技術に口を挟むことは出来ないが、危なっかしくてドキドキするよ。
「メイがね。明日香君に逢いたがってるよ。今度家に遊びにきてね」
「……メイ?」
「メイはね猫なんだよ。明日香君と田中君と遥と四人でドライブに出掛けて、車道に飛び出して危うく轢くところだったんだ」
「……俺が?」
「ううん、違うよ。運転していたのは田中君。仔猫だったメイももうすっかり大きくなって、可愛いのよ」
「……そうか。逢いたいな」
俺は記憶を留めておくことはできないけれど、もしかしたら何かのきっかけで過去の記憶を思い出せるかもしれない。
光鈴大学に復学したのも、そんな思いからだった。
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