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 私は母と翔吾さんの写真を見つめた。

 翔吾さんの顔立ちは、どことなく目元が自分と似ている気がした。


 ――写真を見ているうちに、ふと、あることを思い出した。


 明日香君が図書館で、スピリチュアルに関する輪廻転生や、前世の記憶、死後の世界などの本を沢山読んでいたこと。


 千九百九十八年にヒットしたミュージシャンのCDをわざわざ自宅に持参し、その曲を聴いた母が突然泣き出したこと。


 立花生花店のおばあさんが私達に花束をプレゼントしてくれ、息子さんを十九年前の事故で亡くしたと言った。明日香君がおばあさんに『机の抽斗を見るように』と言ったのは……、翔吾さんの記憶と何か関わりがあるの……!?


「そんな……。明日香君が……立花翔吾さんの記憶を持ったまま生まれたなんて……そんな……」


 母の話を裏付けるような数々の出来事を思い出してもなお、私は半信半疑だった。


「立花生花店のおばあさんが……私の本当のおばあちゃん……」


 体を振るわせて泣いている母を見ていたら、母の言っていることが、満更嘘だとは思えなかったけれど、……どうしても信じることが出来なかった。


 ◇


 翌朝、明日香君の手術は七時間以上を要したが、無事終了したことを片岡医師から聞いた。すぐに逢いに行きたかったけど、『ICUは家族の面会しか出来ない』との説明を受け、逢うことは許されなかった。


 ――母は事故の治療に加え、精神的なダメージも心配され暫く入院することになった。


 それと併用し、翔吾さんと交わした約束を果たすために、角膜移植のための検査もした。片岡医師の話では父は生前母の角膜移植について同意の意考を示していたことを知った。


 ――朝、トントンと病室をノックする音がした。


「はい……」


 ドアを開くと、そこには明日香君の両親が立っていた。手には一枚の便箋を持っていた。


 明日香君の父親が私に便箋を差し出す。


「どうか……読んでやって下さい……」


「……おじさん。明日香君は……」


「涼はまだ眠っています。この手紙に書かれていることはとても正気の沙汰とは思えませんが、それでも読んでやって下さい……」


「……はい」


 私は母の傍にいき、震える指先で……手紙を開いた。視界に飛び込む明日香君の文字が、涙で霞んで見えた。


 明日香君の声が……

 明日香君の心の叫びが……。


 私には……

 痛い程……伝わった……。


 書かれていた内容は、母から聞いた話とほぼ一致していたからだ。


 母の話したことは、本当だったのかな……。明日香君は立花翔吾さんの……。


 私は……

 その手紙を握り締めて号泣した……。

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