72
―ICU―
広い病棟は白いカーテンでいくつも仕切られ、忙しく動き回る看護師と医師の姿……。
心電図の音と、酸素吸入の音……。
生命維持装置の音だけが、響いている白い世界……。
手術を終えた明日香君の頭には白い包帯が巻かれ、口には人工呼吸器が装着され、体には無数の管が繋がれていた。
明日香君の意識はなく……
人工呼吸器のシューッシューッという音と、ピッピッと波形を描く心電図や血圧や脈拍。時折異常を報せるアラームが鳴り、私の鼓動は速まる。
私は……明日香君の手を握った。
あったかい手だった……。
顔は穏やかで……
眠っているようだった……。
「明日香君……翔吾さんは……私のパパだったんだよ。私は……大丈夫だから。何があっても、ママを守るからね。だから……頑張って……。ちゃんと明日香君の口から話を聞かないと……私納得しないんだからね。
明日香君……。私を迎えに来てくれるんでしょう。私と約束したでしょう。クラクションを二回鳴らして……私を……迎えに……。だから……おね……がい……。明日香君……目を……開けて……」
私は明日香君の手を握り泣き崩れた。
明日香君の手を握っている私の手を、母が両手で包んだ……。
「翔吾……。聞こえてますか? 翔吾……あなたの娘がわかりますか。私はもう……手術を怖がらない。ちゃんと……手術を受けるから、だから……お願い……。明日香君をもう解放してあげて。
翔吾は……私達の……心の中にずっと生きている。だからお願い……。明日香君を……連れていかないで……」
明日香君に反応はない。
瞼を閉じている明日香君……。
明日香君に……
もう私達の声は聞こえないの……?
もう……
目を開けて笑ってくれないの……?
その時……
指先が微かに動いた気がした。
「ママ……明日香君が……。ママ……明日香君に聞こえてるんだよ。明日香君……。明日香君……!」
その後……
いくら話しかけても。
どんなに強く手を握り締めても。
明日香君が応えてくれることはなかった。
私は明日香君の手を握り締め、ただ……ただ……祈ることしか……できなかった。
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