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『二人で最後に行ったライブで、俺、興奮しすぎて、前列にいた人の頭に手がボコッと当たっちゃってさ。その人がムッとして振り向いたら、リーゼントのヤンキーでビビッたよな』
舞は驚いたように、見えない目で俺を見つめている。
『そうそう、表参道のケーキ屋さん。舞はいつも苺ショートとティラミスを注文して、一度に二つも食べてたっけ。悪戯して苺を摘まんで食べたらめちゃめちゃ怒って、あの時の舞はすごく可愛かったよ』
俺は二人しか知らない話を、次々と舞に話した。舞は困惑しながらも徐々に落ち着きを取り戻して、俺の話に耳を傾けた。
「どうして……あなたが……そんなことを知ってるの? 誰にも話したことはないのに……」
『信じられないかもしれないが……俺は翔吾なんだ。明日香涼の体を借りて、君に逢いにきたんだ。舞に逢いたくて、舞と話がしたくて、舞に謝りたくて、ただ……それだけを想って過ごしてきた』
舞の目から涙が溢れた……。
「そんな話……信じられないわ……。翔吾がここにいるなんて……信じられるはずがない。でも……私も……翔吾にもう一度逢いたかった。ずっと……ずっと……翔吾に……逢いたかった。あの事故で私も翔吾と一緒に死んでしまいたかった……」
舞は泣きながら両手で俺の頬を優しく包み込む。
「本当に……あなたは……翔吾なの?」
俺は両手で舞を抱きしめた。
ずっと……こうしたかった……。
今でも……舞を愛している……。
君の幸せだけを……
祈っている……。
「あの日……私がいつもの時間に家を出ていたら。私が車の中で翔吾に話しかけなければ……。翔吾はあの事故に巻き込まれ、命を落とすことはなかったのに。私が翔吾を……殺してしまったのよ。私が……翔吾を……」
『舞のせいじゃない。謝らなければいけないのは俺の方だ。お袋の誕生日プレゼントを用意していていつもの時間より遅れた。苛々しながら運転していたから、舞を事故に巻き込んだ。君の目を失明させたのは俺だ。お願いだよ、舞。角膜移植手術をすれば舞の目は見えるようになる。もう一度……俺のために光を取り戻してくれ……』
「あの事故は翔吾のせいなんかじゃない。トラックの運転手は飲酒運転で信号無視をしたのよ。ウィンカーも出さずに右折し、翔吾の車に激突した……。翔吾は私のせいで死んだのよ。だから私は……光を……取り戻すことが怖いの。翔吾のいない現実を見ることが怖い……。翔吾のいない世界で生きることが怖い……」
『俺はずっと自分を責めてきた。でも……希ちゃんに出逢い安心したんだ。舞は幸せな人生を過ごしてきたんだとそう思った。だからこそ、その目で希ちゃんの将来を、希ちゃんの未来を一緒に見て欲しい……』
舞は再び……俺の頬に手を当てた。
目……鼻……口……。
震える指先が顔に優しく触れ、舞は……泣きながら呟いた。
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