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 ◇◇◇


【流れ星の奇跡】


「明日香君……?」


 舞の瞳に映っているのは、俺ではなく涼なんだね……。


 でもそれでもいい。

 俺は舞と話がしたくて、涼の体を借りているのだから。


『舞、ここは二人でよく来た光彩こうさい公園だよ』


「えっ……?」


『夜空には星が輝いているよ。あの日と同じだね』


 舞は混乱していた。混乱するのも無理はない。涼ではなく、突然俺が話し掛けたのだから。


 舞は口を閉ざして俯いた。

 俺はそんな君の手を握り話を続けた。


『あの頃……二人でよく来たよな。まだ免許取り立てで、危なっかしくて、舞のお母さんにも俺のお袋にも、『気をつけてね』って口癖のように言われたっけ』


 舞の背中が小刻みに震えている。


『俺は……ずっと、舞に逢いたかったよ。あんな事故で……突然舞の前から姿を消さなければいけなくなり、そんな自分がすごく情けなくて悔しくて、どうしても……もう一度舞と話がしたくて、あの日、切迫流産で亡くなった涼の体を、借りる事にしたんだ……』


「……明日香君、なに言ってるの? 意味がわからないわ。切迫流産で亡くなったって……明日香君はここに……」


『舞、君に逢えた時は本当に嬉しかった。涼の体に再び命の火を灯したものの、もう……二度と逢えないかもしれないと思っていたから。俺はどうしても……舞に想いを伝えたくて……。ずっと……この日を、待っていたんだ』


「明日香君……。どうしてこんなことをするの? どうして私を苦しめることばかり言うの……? もう……聞きたくないよ」


 舞は両手で耳を塞ぎ、取り乱している。


『俺はもう一度舞に逢うために、涼の体を借りてこの世界に残ったんだ。舞、もう君も気付いているんだろう』


「何を言ってるの……。わからないわ! あなたの言ってることは、全部嘘よ!」


 俺は舞の両肩に両手をかけて向き合う。


『舞……俺は翔吾なんだよ。信じられないだろうけど、俺は……翔吾なんだ』


「どうして、明日香君が翔吾を知ってるの? 翔吾は……死んでしまったのよ。十九年前に……もう、死んでしまったのよ……」


 舞は再び耳を塞ぎ、泣き叫んだ。


 ――舞……

 泣かないで……。


 どうすれば……

 俺が翔吾だとわかってくれるんだよ……。


『舞、この公園に初めて来た時のことを覚えてる? 犬を散歩していたおじさんに逢ったよな。やんちゃなシェパードで、急に走り出すから、おじさんはリードを持ったまま顔から地面に突っ込んで、勢いでカツラが飛んでシェパードがそれを口でナイスキャッチして、二人で笑ったよな』


 当時のことを思い出し『ククッ』と笑うと、泣いていた舞が顔を上げてこちらに瞳を向けた。

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