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「どーした涼? 何をふて腐れてんだ? しかし可愛い子だなぁ。優しいしよく気がきくし、お前には勿体ないお嬢さんだ。女の子はやっぱりいいなぁ。ああして料理を手伝ってる姿は、見ているだけで楽しいよなぁ。母ちゃんはいいしゅうとめになりそうだ」


 親父はニマニマ笑いながら、お袋と希ちゃんを眺めている。


「何が姑だ。俺達はまだ学生だし、そんなんじゃないから」


「そうか? 父ちゃんと出逢った時、母ちゃんはまだ高校生だったんだぞ。母ちゃんが高校卒業するのを待ってすぐに入籍したんだ。その翌年にはお前を生んで、あとは我武者羅に働いた。運命の出逢ってあるんだよ」


 希ちゃんとお袋の背中を見つめながら、ヘラヘラしている親父に、思わず突っ込む。


「何、デレーッとしてんだよ」


「ハハハッ。母ちゃんのセーラー服姿を思い出したんだ」


 お袋のセーラー服姿なんて、キモくて想像つかないから。


 親父と揉めているとカレーのいい匂いが、室内に漂う。腹ペコ怪獣が真っ先に声を上げた。


「カレーが出来たぞーー!」


「お姉ちゃん、すげーうまそーー!」


 怪獣が我先に鍋を覗き込む。

 いつもと同じ市販のルーだ。

 特別味が変化しているわけじゃない。


「あっちに行って座ってなさい。すぐに用意するからね」


 お袋が怪獣を追っ払うが、すぐにUターンして希ちゃんの周りに集まる。


 食事の支度も整い、家族でテーブルを囲む。


「「いただきます」」


 怪獣の大合唱で、食事が始まる。

 いつもなら我先に、鍋に残るカレーや大皿に盛られたサラダを奪い合うのに、驚くくらい弟達は行儀よくて、まるで別の家に来ているようだ。


 こいつら、名演技だな。


 無理をして行儀良く振る舞っている怪獣達の様子が滑稽で、俺は声を上げて笑ってしまった。


「どうしたの?」


 希ちゃんが不思議そうに俺を見つめる。


「いや、こんなに平和な食卓は初めてで。あははっ、驚いてるんだよ」


 弟達が口を揃えて、答える。


「「お兄ちゃん、いつもでしょう?」」


 こいつら、マジで子役になれるぞ。


「希ちゃん。お母さんは大丈夫なの? 一人だよね?」


「うん、大丈夫。さっき電話したから。母が宜しくお伝え下さいって……」


「あら、希ちゃんのお宅はお母さんと二人きりなの?」


 お袋が希ちゃんの家庭環境に、ズケズケと踏み込む。


「はい。父は三年前に亡くなりました。母は目が不自由で……、でも大丈夫です。大抵のことは一人で出来ますから」


「まぁ……目が? 大変ね。生まれつきなの?」


「お袋、もういいだろ。そんなこと別に聞かなくても……」


「そうだったわね。ごめんなさいね。さぁ、希ちゃん、たくさん食べてね。家のカレーは美味しいから、すぐに空っぽになっちゃうのよ」


「美味しいって、それ、希ちゃんが作ったカレーだろう。あれ? いつもよりこくがあるけど、今日は違うルーなのかな?」


「今日は希ちゃんが隠し味をいれたのよ。ね、希ちゃん」


「はい」


 隠し味って何だよ?

 お袋と顔を見合わせ、希ちゃんがニコッと笑った。


「何を入れたの?」


「秘密だよ。ね、希ちゃん。味オンチの涼にはわかんないでしょう」


 弟達がチョコレートの空箱を指差し、爆笑している。希ちゃんも両親も笑っている。


 何を入れたのかさっぱりわからないけど、俺もつられて笑った。


 これが家族団欒なのかな。

 希ちゃんの楽しそうな笑顔が、すごく印象的だった。

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