【4】初恋

舞side

28

 私は庭に面した縁側に座り、空を見上げるのが好き。


 空を見上げても、私の瞳には空の青さも流れる雲も、太陽の光りも星空も何も見ることは出来ないのに。


 十九年前に翔吾と見た透き通るような青い空……。


 美しいあの空が、今も私の瞳にはっきりと映っている……。


 毎朝、縁側に腰を降ろし、翔吾が車で迎えに来てくれるのを待っていた。母が好きだった数種類の薔薇の樹に、美しい大輪の花が咲いていた。


 クラクションを二回鳴らすのが、翔吾の合図。


 私は縁側から飛び降りて靴を履き、翔吾の車に乗り込んで大学へ向かう。


 ――千九百九十八年 夏の終わり――


 あの日もそうだったよね。


 いつものように翔吾が迎えに来て、クラクションを二回鳴らした。その日に限って仕度に手間取った私は、ほんの少し翔吾を待たせてしまった。


『ごめんね』


 助手席のドアを開けた時、翔吾は少しだけ苛ついていたよね。


『ごめんってば。怒らないで』


『十分も待たせるなんて、遅刻したらどーするんだよ』


 その日はオープンキャンパスで、私達は実行委員だった。


 時間に几帳面な翔吾と、少しルーズな私。

 翔吾はアクセルを踏み、急発進させたっけ……。


 代官山から中目黒に差し掛かった時、あの事故が起きた。


 私の光は……。

 あの時に、消えた……。


 翔吾の……命と一緒に……。

 消えてしまった……。


 私は……。

 翔吾と一緒に死んでしまいたかった……。


 あの時、翔吾と一緒に死んでしまえばよかったんだ。


 もしも私が、いつもの時間に家を出ていたら……。


 もしも私が、翔吾に話し掛けなかったら……。


 翔吾はあの事故を避けることができた。


 翔吾は……命を落とさずにすんだ。


 全部、全部、私のせいだ……。

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