27

 いつもなら『まだ生む気かよ』って、お袋にツッコムとこだけど。


 その時の俺は気が動転していて、頭が真っ白だった。


 俺がお袋の胎内で生死を彷徨っていた時に、翔吾も同じ病院で……。


 いや……もしかしたら……。

 俺は一度、死んでしまったのかもしれない。


 同じ日の同じ時間に……同じ病院で……。

 翔吾が……この世を去ったとしたら……。


 一度消えた俺の命を、再び蘇らせたのは……翔吾……!?


 彼は何かを伝えるために……。

 俺の止まった心臓を蘇らせ、俺の記憶の中に……飛び込んだ……!?


 彼が俺に伝えたいこと。

 彼が俺に、頼みたいこと。

 それは舞さんへの想い以外何もないはずだ……。


 ――俺は、そのことに気付いて決心した。


 翔吾の想いを舞さんに伝えよう……と。


「涼、聞いてんの? 人が真面目に話しているのに、うわの空なんだから。これだから、男の子ってつまらない。さて、三人が戻る前に夕飯の支度にかからなきゃね」


「お袋……」


「えっ? 何?」


「お袋……ありがとな。俺を生んでくれてありがとう。この命、大切にすっから」


「えっ? 何よ、涼らしくないわね。涼が『ありがとう』だなんて、ゲリラ豪雨が降ったらどーすんのよ。バカな子だね」


 お袋は笑いながら、俺の顔を覗き込む。


「うっさい。感謝してんのに、バカは余計だ」


 つい口から飛び出した言葉に、我ながら照れ臭い。


「そうそう、うちの涼はそうでなくちゃ。何か悩みでもあるの? 最近元気ないよ。瞬も悠も恵も『兄ちゃんが元気ない』って心配してるんだよ。何があったか知らないけど、早くいつもの涼に戻ってよね」


 お袋は俺の頭をポンと軽く叩いて、いつものように夕飯の支度を始めた。


 ――俺は悩んでいたんだ。


 どうやって舞さんに伝えればいいのか、分からなかったから。

 俺の話なんか、両親は愚か誰一人信じやしないだろう。


 でも……俺の頭の中で……。

 翔吾の想いは生きている。


 伝えないと……。


 この想いを……舞さんに伝えないと……。

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