13

 ◇


 数日後、通学路で偶然希ちゃんと遥ちゃんを見かけた。

 田中が俺の腕を掴み二人を追い掛ける。


「おはよう!」


「あっ、あ、あ、明日香君……!?」


 希ちゃんが俺を見て真っ赤になった。


「希ちゃん、俺は?」


 田中が自分の鼻先を指差す。


「おはようございます。えっと……お名前は……? 田口さん?」


「何だよう~。忘れちゃったの? いいよ、何度でも自己紹介する。俺の名前は田中司。たっくんでも、つかちゃんでも、好きに呼んでいいからね」


 ヘラヘラしている田中に、遥ちゃんが眉をひそめた。


「全然ガラじゃないし。バッカみたい」


「君、君、えっと……名前は? 仁多さん?」


「フン、二宮遥です。ていうか、私の名前は覚えなくてもいいですから」


「またまたぁ~、ホントは覚えて欲しいくせに。もしかして、遥ちゃんは俺に気があるのかな?」


「まさか! ありえない。私は美男子が好きなんです。光鈴大学経済学部の亀田君ならともかく、田中君なんて興味あるわけないでしょう。それより、紙飛行機は見つけてくれたんでしょうね」


 遥ちゃんは息巻きながら、田中に詰め寄る。


「かみ、かみ、紙飛行機は……ただいま捜索中だ。墜落事故現場が特定出来なくて、まだ見つかってない。その代わり、亀田なら知ってるから。俺、亀田とはダチだから」


「うそ、マジで? あのかっこいい亀田君とあなたが友達? 信じらんない」


「外見で人を判断しちゃ困るな。亀田と友達になりたいなら、この俺が紹介してあげてもいいよ」


「あなたに紹介してもらわなくても、希に紹介してもらうから結構です」


「えっ? 亀田と希ちゃん知り合いなの? 亀田だけはやめた方がいいよ。あいつは遊び人だから」


 田中の発言に、遥ちゃんが噛み付く。


「亀田君は希の幼なじみなんだよ。いい加減なことばかり言ってると許さないからね」


「マジで!? あの亀田と希ちゃんが幼なじみだなんて、驚いたな。な、な、涼」


「……ああ」


 亀田は光鈴大学でも、ダントツのイケメンだ。

 いつも数名の女子に囲まれている。

 むさ苦しい男ばかりと連んでいる俺とは異なり、男なのに華やかさがある。


「そうだ。希ちゃん、遥ちゃん、俺達、今、自動車学校に通ってるんだ。もし免許取ったら、初ドライブは君達と行きたい。涼と四人で行こうよ。ダメかな?」


 まだ仮免しか取ってないのに、田中は女子高生にデートの約束を申し込む。


「……明日香君も? どーする希?」


 遥ちゃんは希ちゃんに顔を近づけヒソヒソと相談している。

 希ちゃんはコクンと頷いた。


「まじ? まじ? 絶対に免許一発で取るから、希ちゃん待っててね」


「その代わり、紙飛行機、絶対に探して持って来て下さいね」


「わ、わかった! 俺に任せて!」


 田中はガッツポーズで二人を見送る。


 二人と別れた後、田中は一目散に走り出す。俺は自転車のペダルを漕ぎ追いかける。


「なに、急いでんだよ」


「涼、探すんだよ!」


「は?」


「希ちゃんの紙飛行機だよ。絶対探すって約束したんだから」


「あの日、散々探したけど見当たらなかっただろ」


 光鈴大学に着き、フェンス横の木の隙間を隈無く探すが、紙飛行機なんてどこにもなかった。


「きっと別の場所に落ちたか、誰かが先に拾ったんだよ」


「ちぇっ、けどさ、希ちゃんが亀田と幼なじみだとは知らなかったな。まさか……亀田と付き合ってないよな。ほら、幼なじみとイイ感じなんて、ドラマや漫画に有りがちじゃん」


「亀田と……?」


 高校時代、俺は部活でサッカーをしていた。

 亀田はサッカーの強豪校だったが、他校でも知らない者がいないほど有名な選手で、都内の大会ではよく一緒になった。


 高身長でルックスもよく美男子でスポーツマン。当時から女子にはモテていた。


 足も早いが、手も早い……。

 女なら、誰でも大好き……。


 モテる亀田への僻みもあり、俺らの間ではそういった噂も飛び交っていた。

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