彼女は俺と視線が重なりくるりと背を向けた。ロングヘアがサラサラと風に揺れる。

 彼女の後を追い掛けて来たショートヘアの女子高生が俺達を見て「えっ!?」と小さく声を上げ、くるりと背を向けた。

 セーラー服のプリーツスカートが、花のようにフワリと広がる。


「あっ……ちょっと待って……」


 田中が女子高生を呼び止めた。


「はじめまして! 君は光鈴女子高の生徒だよね。俺は田中。田中司よろしくね」


 ていうか、光鈴女子高の敷地内にいるんだ。生徒に決まってるだろう。生徒でなければコスプレした不審者だよ。


「俺は上戸裕也! よろしくね!」


 上戸もすかさず自己紹介をする。二人の女子は耳元でヒソヒソと内緒話をしていたが、一人がこちらを振り向きにっこり笑った。


「初めまして。私は二宮遥にのみやはるか高三です。こちらは朝倉希あさくらのぞみ。私達探しているものがあるの。大学の構内に落ちたみたいなんだけど……」


「さっき飛ばしていた紙飛行機だよね?」


 軽いノリで田中が答える。


「……やだ。見てたんですか!? サイテー。あれはとても大切なものなの。光鈴大学の敷地内に落ちていませんか?」


 遥ちゃんはテキパキと要件を伝えたが、もう一人の女子は俺達に背を向けたままだ。


 三人で周辺を探したが、紙飛行機は見当たらない。


「あれ、何だったの?」


「な、何でもありません。見つけても絶対に中を見ないで下さいね」


「わかった。必ず探して君達に渡すよ。でもそうするには、まず君達と友達にならないと見つけても連絡取れないな」


 遥ちゃんがチョンチョンと彼女の肩を叩き、耳元で相談している。


「わかりました。希が『明日香君、宜しくお願いします』と言ってるので、見つけたら校舎の窓から両手で丸を作って知らせて下さい。そうしたら、この場所に取りに来ます」

 

 携帯電話の番号やメールアドレスやLINEは教えたくないわけだ。

 だからと言って、何で俺が校舎の窓から両手で丸を作らないといけないわけ?

 それって何かの罰ゲームじゃん。しかも、何で俺を指名なんだよ。


 女子高のチャイムが鳴り、二人は慌てて校舎に向かって走る。


「えっ? なんで? なんで? 彼女が涼の名前を知ってんだよ?」


「えーっ? お前自己紹介しなかったよな? 何で知ってんだよ?」


 いつもながらのオーバーリアクション。

 そんなこと、俺が知るわけないじゃん。


 でも……どうして?

 彼女が俺の名前を知ってるんだろう……?


 俺は小中高と公立だったし、彼女との接点は何もないはず。


「涼、ニヤケてんじゃねーよ」


 上戸にバシッと頭をどつかれた。


「そーだそーだ! 俺や上戸じゃなくて、な、ん、で、涼なんだ? どう見たって、俺や上戸の方がイケてるだろ」


「いや……俺はイケてるが、坊主頭の田中はどーかな?」


 上戸は田中の発言を全否定だ。


「お前だってアニメのキャラクターみたいな髪型してるくせに。坊主頭のどこがイケてないっつーんだよ!」


 上戸の首根っこを掴んで、田中が左右に振り回している。

 上戸は田中に胸ぐらを掴まれても、ヘラヘラ笑っている。


「お前ら、ミニコントはいらないから」


「ミニコントだってよ。本当にコイツは可愛くねぇな。自分が一番イケメンだと思ってるに違いない」


「まあ、涼も俺もイケメンだけどな」


「裏切るのかよ、上戸! お前のどこがイケメンなんだよ。動物園のゴリラの方がイケてるっつーの」


「は、は、はっ。田中より松ぼっくりの方がイケてるぞ」


「ぐわぁ、松ぼっくり? 松ぼっくり!?」


「いや、タワシだった」


「ぐわぁ!!」


 田中は上戸の胸ぐらを掴み、ぐわんぐわんと振り回している。

 大学生になったのに、コイツらまだまだガキだな。

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