5
大学で講義を受けていた時、脳裏にある光景が過ぎる。
――以前にも体験したことがあるような光景……。
誰かが、俺の隣で笑っている。
その人の顔は思い浮かばないけど、女性の口元だけが頭に浮かんだ。
にっこり笑っている優しい口元……。
「おい涼、何ボーッとしてんだよ。また隣接する女子高を見てたのか?」
野球部だった田中は未だに坊主頭。高校からの友達で
「お前、誰か可愛い女子高生でも見つけたのかよ? 意識飛んでたぞ」
「そんな子いねぇよ。大体何処にいんだよ。そんな可愛い子がいたらお目にかかりたいもんだ」
顔を上げて窓の外に視線を向けた。
大学の校舎の窓から、
紺地に白いラインのセーラー服、赤いリボンが風に揺れている。
紙飛行機は風に乗り、空中をふわふわと飛んでいる。
一人は嫌がっているように見えなくもないが、なんて……可愛いんだろう。
「ほほっー、もう目をつけたのか? この校舎は光鈴女子高にもっとも近い校舎なんだ。もともとこの大学は光鈴女子高の附属女子大だったからな。新入男子にとって、ここは天国に一番近い場所。あの真ん中の女子、注目の的なんだよ。めっちゃ可愛いだろ。 実はこの俺様も前から目をつけてたんだ」
デレッとした顔で、田中がほざく。
今まで注意深く見たこともなかったが、出席している男子学生はみんな窓際を占領し、視線の先は教授ではなく窓の外だ。
「そーそー、実は俺も狙ってんの。光鈴の
上戸は身を乗り出し、図々しくも女子高生に手を振る。
「バカ! 何やってんだよ。彼女は俺が見つけたんだよ。勝手に光鈴の姫君なんて呼ぶんじゃねぇ」
「あれ? 田中知らねーの? みんなそう呼んでっけど」
「おいっ! そこの三人! 煩いぞ!」
教授に怒鳴られ、教室にクスクスと笑い声が響く。
彼女が飛ばした紙飛行機は、光鈴女子高の敷地を飛び越え、光鈴大学のフェンスに植えられた木に落ちた。
「キャーキャー」騒いでいる女子高生。
彼女が窓から身を乗り出し慌てている。
大きな目をした愛らしい顔だ。
「超可愛い~」
田中がデレーッとした顔で笑った。
マジでキモいから。
講義終了のチャイムが鳴り、田中が俺の手を掴んだ。
「おい! 涼ダッシュダッシュ!」
「へっ……? どこ行くんだよ?」
「馬鹿何やってんの? 早くしないと。誰かに取られちゃうだろ」
「取られるって、何を?」
田中に手を引っ張られ、校舎を飛び出す。
田中は一目散にフェンス前の大木を目指した。
そこには数名の男子学生がいて、宝探しのようにみんな何かを探している。その中に上戸の姿もあった。
光鈴女子高から飛び出してきた一人の女子が、フェンスの向こう側からオドオドとした眼差しをこちらに向けた。
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