第6話 5
「な……!」
激しい衝撃が、わしを襲う!
と同時に体に別の衝撃が襲い、目の前が真っ白に包まれる!
「ぐぬっ……! ふぐぬっ……!!」
突然ビニールの不快な肌触りが、顔を包みおった!
い、息がでけへん!
「ぐぬーっ!」
手探りでつかみ、強引にそのビニールを引き剥がす。
そのビニールは、ハンドルから放出されたエアバッグやった。
あたりを見ると右側のドアは衝撃でゆがみ、ガラスもヒビが入っておった。
視界が回復した所で、衝撃のあった右側を見ると。
さっきまで追跡してきておった黒い車が、ボンネットを跳ねあげて止まっておった。
そう。ごりらちゃんが乗っているタクシーや!
「ひぃ……! こいつ……! 車をぶつけてきやった……!!」
わしはシートベルトを外し、無事な左側のドアを開けて出ようと思った。
が、衝突の際自動車のフレームが歪んでしまったのか、なかなかドアが開かん。
「このっ、このっ、このーっ!!」
最後はなかばドアを外すような勢いで強引に開け、外へと降り立つ。
その時やった。
何かが大きく外れる音がして、相手の車の助手席の方から影が降り立ったんや。
その人影の顔は、夜の闇に隠されて最初は見えんかった。
が、その影が数歩動き、影が交差点の照明に照らされると……。
彼女の憤まんに満ちあふれた表情が、不気味に浮かび上がりおった。
もちろん、それはごりらちゃんや!
「う、うわああああああ!!」
わしは彼女の姿を見るなり、一目散に十字路の前方へと逃げ出す。
ごりらちゃんも、
「待てええええええ!!」
叫び声を上げながら、追いかけてきおった!
「なんでや!? なんでこうなったんや!?」
わしは自問しながら首を横に振る。
が、答えは出えへん。
出えへん……。
「ひぃ……! ひぃ……!!」
それでも見つからない答えを探すように、必死にごりらさんから逃げるわしやったが。
小さな段差につまずいたんやろか、一瞬足がもつれてしもた!
「あ!?」
次の瞬間、わしは勢いをつけたまま、前方へ倒れてしもた!
衝撃と痛みが体を走る。
いでぇ……!!
わしにとってその一瞬が、永遠に思えた。
今までの人生のあらゆる出来事が、脳内をぐるぐると駆け巡る。
まさに走馬灯や……。
「くっ……!」
わしの命運は、尽きたんか?
万事休すなんか?
それでもわしは、あがくように立ち上がる。
最後の最後まで、諦めないんや!!
その時、背後に殺気が!
ふっ、と振り返ると。
すぐそこに、ごりらちゃんが憤怒の表情で仁王立ちしておった!!
バケモノや……! ホラー映画の化け物や!!
「観念しなさい!」
慈悲はない、というその表情に。
「ひい……っ! 来るな……! 来るなぁ……!!」
こうなったらこいつを殺ってでも!!
ふぬぅー!!
「あーあ。スーツのポケットからナイフを出しちゃって……。それを振りかざしたんだし、何をされても文句ないわよね!」
う……!? な、なんて落ち着きようや……!?
わ、わし勝てへん!?
「あんたは詐欺罪とか脅迫罪とか公務執行妨害とか窃盗とか色々罪を犯しているけど。それよりもあたしが許せないのは! まず、あたしを男と見間違えたこと! 次に、追いかけてくるあたしを化け物扱いしたこと! そして最後に……。あたしを『ごりらちゃん』と呼び続けたことだああああああああああああああああああ!!」
え……?
わしは呆然とした。
そ、そんなこと……。
「そ、そんなこと、わし言うてへん!!」
「言ったああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
言ってへん! こころん中では言うたけどあんた聞いてへんや……!
うぐあっ!
間髪いれずにタックルがっ!?
うわ、手をねじるな!?
そのまま投げられたー!?
うわああああああー!
視界が回るーっ!
ぐふっ!
痛っ! 息ができへん!!
なんか、遠くで金属音が鳴ったような……。
右手が軽い。
ああ……! ナイフが……!
でも、わしは……!
グワーッ!
ごりらちゃんがわしの胸の上に馬乗りにー!?
やめ! やめてや!!
何する気や!?
やめんかい! やめんかい!
うごーっ! うごーっ!
「いいかげんに暴れないで大人しくしなさい、テツさん!! 犯罪者に慈悲はないわよ!!」
ごりらちゃんの顔、アシュラをも超えた顔つきや……!
怖いー!!
ひっ、ひぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「ゆっ、許し……」
「ごめんですんだら警察はいらないわよ!!」
やっ、やめ……! 殴ら……!
ゴッ! グフッ! ゴボッ! グフッ! グガ! ガハッ! グガッ! グワッ!
たすゴボッ…………!!
…………。
……。
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