第2話 ミックスジュース

 太陽が人を打ちのめすように照りつける夏の中盤

 ガリガリと地面に描かれた鳥居を囲むそっくりな2人の幼い子供が声を合わせて呪文を唱えた


「「こんこん狐のきつね子さんどうぞおいでくださいな」」


 すると少し間を空いてぽんっと描かれた鳥居の上に1人の少女と、女性の間の人影が立っていた


「はいはぁい!こんこん狐のきつね子ちゃん、呼ばれて飛出てこんにちわってね!」


 現れた人物、きつね子は呼び出した子供たちの頭をよしよしと撫でた


「うむうむ!初めてにしては上出来!」

「わぁ、ほんとにでてきたー!」

「どぉなってるのー?」

 くびを傾げながら撫でられている子供達にきつね子はうーんと言いながらナイショ!っと口に人差し指を当ててシーっとしながら言葉を続けた


「んま、危ないことや、相談事があったらいつでも呼び出してねって感じ?」

「「あぶないこと」」

 声を合わせてさらに首を傾げる双子、ひいらぎかえでにふふふ、と笑いが漏れる


「えーと、これ山中の誠ちゃんから教えてもらったんでしょ?

 誠ちゃん昔はすーっごく可愛かったから色んなのから攫われそうになってねぇ」

「ゆうかい?」

「たいへんさんだ!」


 あわあわとたいへん!へんたいさんだよ!あれ?

 と話すのを微笑ましく見ながら言葉を続けた


「うむ!ちょっと見過ごせなくなった神様ぬしさまが呪文を作ってくれてね!顔が広いあたしが交渉役として呼び出されるようになったのさ!」

「こうしょうやく?」

「おかおひろい?」

「あははーまだ柊と楓には難しいかぁ!」

「あわ」

「たかーい」


 そのまま倒れそうになるくらい首を傾げる2人をヒョイっと抱き上げ目線が同じくらいになるよう持ち上げた


「さて!上手に出来たのでご褒美のお時間です!」

「ごほうび!!」

「です!!」


 やったー!と手を上げる双子を持ち上げたままくるりと回り、石畳の階段を駆け上がった






 ───────────────────


「到着!」

「「おじゃましまーす!」」


 ひんやり涼しい屋敷に上がり台所を目指しずんずんと進んでいく


「「「あっ」」」

「おや、おかえりなさい」

 ガラリと扉を開けると長髪の男…

 この屋敷の主である神様が出迎えた






「えっ?あれ?なんで??」

「「神さまこんにちわ!」」

「はい、こんにちわ

 うさ子は買い物に行ってますよ?」

 コチラをちらりと見つめ何やら作業をしていたのかぱらりと書類と筆を机に置いた神様は、ふと考え込みポンッと音を立て姿を変えた


「「わぁ!狐のしっぽ!」」

「はっはっはっ!なんとこのしっぽ、九つに分かれます!」

「ふわふわ!」

「もふもふ!」


 ふわふわと揺れるしっぽを双子が両脇から幸せそうに抱きつくのを痛む胃を擦りながら無視し、話を聞いた


「今日は、他の神社との会議だと仰っていたはずでは…」

「あぁ、ほら最近流行りのりてわーく?

 てれわーく?りもとわーく?」

主様ぬしさま、それを言うのであればテレワークとリモートワークですか…?」

「そうそう!それです!いやはやカタカナは難しくて…」

「あ、そうですか」


 食べ物が関わっていれば使いこなすのにとか、色々頭を抱えたかったが、気のせいという事に…なんて考えていると

 ふと、服が引っ張られる感覚がして目線を下げた


「ごほうび?」

「まーだ?」


 ──クリクリとした無垢な瞳に見られ、きつね子は全ての思考を破棄した


「よっしゃ!ご褒美作ろう!柊と楓もお手伝いしてなぁ!」

「わぁい!」

「お手伝いするー!」

「ふむ?何か作るのですか?」


 機材やら果物などを取りだし興味深々といった雰囲気に

「主様も手伝ってくださいね!働かざる者食うべからず!です」と声を張ると後ろから

「はぁい」と嬉しそうな声がした




 ───────────────────


「よっし!今回は、ミックスジュースを作ります!」

「みっくす!」

「じゅーす!」


 ドンッと机に果物とジューサーを置き材料を1つずつ処理していく


「はい!ではよく熟したバナナを1本皮をむいてミキサーに入れやすい大きさに切ってください!」

「バナナ!」

「むく!」

「あぁ、包丁は危ないので私がしましょう」

 トントンと軽やかな音を聞きながら次へ進む


「次は、みかんの缶詰とパイナップルの缶詰!

 缶切りで開けて、お皿に出してください!」

「かんきり!」

「おさら!」

「うむ!零さないように気ぃつけて」

 ボトボトとみずみずしい果物がお皿に乗っていく


「うっし!次は牛乳!1カップ分きつね子さんが入れちゃいまーす!」

「ぎゅーにゅー」

「にゅー」

「ふふふ、楽しみですねぇ」


「はい!ここでミキサーとーじょー!」

「とーじょー!」

「みきさー!」

「ぜーんぶ入れちゃいます!」

「ぜんぶ?」

「おしるも?」

「うむうむ!缶詰のお汁も入れちゃいます」

「ふむふむ」

「「ふむー!」」

 ミキサーの蓋持ったところであっと思い出す1番大事なもの!


「しまった!バニラアイス!」

「あいすをー」

「あいすっすー」

「ダジャレですねぇ」


 冷凍庫からバケツアイスを取りだし大匙4杯ほどをボタボタと入れていく


「よーし!ミキサー混ぜ混ぜしまーす!」

「まぜまぜ!」

「ぐるぐる!」


 たまに止めてドロドロといい感じの液状になったら、

「完成ー!」

「「やったー!」」

「わーぱちぱち」


 ぱちぱちと小さな拍手と歓声を聞きながら冷蔵庫からあるものを取り出す


「神様コップ出してくださいー」

「はいはぁい」

「神さま、」

「はいは1回なんだぞ!」

「おやまぁ…はぁい」

 くすくすと笑い合う声を聞きながら小さく鼻を鳴らし最後の準備を進める


「はい!ジュースをいれて、最後にうさ子ちゃんの作り置きしてくれてたチョコクッキーをちょっと砕いて乗せて完成です!」

「わぁ!チョコ!」

「クッキー!!」

「美味しそうですねぇ」


 キラキラとミックスジュースの前で3人の目が輝くのを見てふふんと得意げに鼻を鳴らしてしまったのは仕方ない事だろう


 ───────────────────


「いただきます」

「「「いただきまーす!」」」


 挨拶をしてごくりと飲み込む

 ひんやりと冷たくトロトロとたまに混ざりきってない果物の食感が少し楽しい


「「おいしー!!」」

「食感が残っていて面白いですねぇ…」

「うむうむ!美味しいならよかった」


 どうやら3人には好評のようだった

 ふと神様があぁ、そういえば…と頭を傾げ疑問を口に出した

「そういえば柊と楓はきつね子と何をしてたんですか?」


 ご褒美って事はお手伝いか何かですか?とこちらに目線を向けた


「あー、あのほら、見た感じ誠ちゃんみたいな事になりそうだったので…」

「んー?誠…あぁ!んん?え?この双子が??」

「「なぁにー?」」


 えっ??と困惑している神様にはぁとため息を付いて答えを返す

「ほら、この2人ももう6つです、来年には7つになるんですよ?」

 お忘れですか?と口に出すとサッと顔を青ざめあー!叫んだ

「そうでした!!あの子も7つ過ぎてから…

 あぁ、そういえばこの子達の家って…」

「そうです…思い出されましたか…」

「うー?」

「どーしたのー?」


 あぁぁぁ…と頭を抱える神様を後目に双子の頭をグリグリと撫で説明をした


「ほら、柊と楓は、誠ちゃんのはとこでしょ?山中の血筋…お家は、たまぁに厄介な体質の子を産むんだよ

 誠ちゃんの場合は、人外連中に異様に好かれてしまう魂を持っているんだ。ま、最近は成人した事もあって大分落ち着いたけど」


 そう説明し、ふぅと一息ついて続けた


「柊と楓も、そんなちょっと大変な体質を受け継いでるかもしれないんだ、それが分かるのが7つを過ぎてから

7つまでは神のうちってやつ

 だからそれまでに簡単なおまじないなんかを教えているんだよ」

 まぁ、2人にはまだまだ難しいよなぁ

 なんて、呟いてまだ頭を抱えている神様に目をやった


「誠の体質は、実に100年ぶりと言っていいもので、久しぶり過ぎて忘れていましたが、あの呪いと言ってもいい厄介な体質は、普通に産まれる物なんですよね…」

 何故100年も産まれなかったのか不思議なぐらいで…


 はぁ…と深いため息を聞きながらピロンっと、きつね子の持っている端末からの音が鳴った


「あれ、双子ちゃんのママが2人呼んでるわ…

 お家送って行くから帰りの準備しーましょ!」

「「はぁーい!」」


 パタパタと片付けをする音を聞きながらきつね子は神様に声をかけた


「で、主様的にはどうですか?あの二人は」

「ははは…うーん…見た所、五分五分と言った所でしょうか…

 片方が開花し、片方は…そのままか、いや、巻き込まれて遅咲きか…」

 何にしても何も無ければいいのですが


 と誰にも届かない祈りが、入道雲の浮かぶ夏真っ盛りの青い空にポツリと消えた

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