神様だって美味しいものが食べたいのです!

無月

第1話 ゴーヤチャンプルー

これは人外と人間達の距離が、ずっと昔から変わらず、良き隣人として生活している、

 そんな世界線の何処かの、自然豊かな田舎の人間達と可愛い3匹と神様の美味しいお話


 蝉がなく夏の暑い日の事

陽炎が揺らめくアスファルトから逸れると1本、それなりに整備された砂利道がある

 そこを進むと、今度は長い長い石畳と階段が現れた

 息を切らしながら階段を登ると、先には立派な鳥居

 その先には大きな神社の本殿が静かに佇んでいた


 額から汗が垂れるのを握りしめていたせいでくしゃくしゃとシワが着いたハンカチで拭うスーツを着た青年、誠はその本殿から離れた場所にたっている小さな建物をコンコンっと叩いた


 コンコンコン

山中寺やまなかでらの長男坊、まことです

 母から預かったものを届けに参りました

 誰かいらっしゃいますか」


 すると、鈴の音のような少女の声が返ってきた


「はぁーい

 今出ますー!」


 ガラガラと、昔懐かしい感覚を思い出させるように扉が開いた

 出てきた少女は、日焼けのない真っ白な肌に、人間には着いていないはずの大きな耳が頭の上でぴょこぴょこと動いていた


「こんにちは、うさ子ちゃん

 今日は、獣…人…? なんだね…?

 耳のもふもふ、逆に暑くないの?? 」

「あ、はい!兎の耳って、実は体温調節の機能が着いているので、完全に人の体よりは快適なんですよ!」

「へぇ」


 そんな豆知識を教えてもらいながら少女、兎のうさ子ちゃんにビニール袋を拡げて見せた

 その中身の内容をみて、

 あぁ、どうりで重いわけだと、俺は苦笑いするしかなったが


「お醤油に、味醂に塩に…

 わぁ!そろそろ切れそうって言ってたのと…

 あ、こっちは使ってみたいって言ってた調味料!!」

「あ、あとこっちもうさ子ちゃん達に

 うちのじいちゃんが今日採れたての野菜持ってけって」

「ゴーヤにキュウリに…トマトも!

 後でお爺様にお礼しなければ…!」


 キラキラと宝石箱を覗くように眺めている彼女を見ていると突然ぐぅーと腹の虫が…

 恥ずかしながら俺の腹から飯をくれと抗議の音が鳴った


「あらあら?腹ぺこですね!

 お昼まだなんですか?」

「実はまだ…

 今日は会社で半休貰って家帰ったらそのままお袋に追い出されてさ…」

「ふふふ、実は私達もまだなのです

 これから用意するのでお昼ご飯食べていってくださいな!」

「あれ?もう1時近いけどまだなの?」

「えぇ、今日はきつね子ちゃんとたぬきちくんが出掛けているのでのんびり用意しようかと」

「あぁ、なるほど

 じゃあご馳走になりますって事で、

 お邪魔しまーす」

「はい、いらっしゃい」


 軽口を言いながらくすくすと2人で笑い、ひんやりした木造の屋敷に足を踏み入れた


「あ、先に神様に挨拶してこないと」

「あら、なら荷物貰うので挨拶してきてください」


 うさ子ちゃんに荷物を渡し、

 冷たく涼しい廊下を歩きながらふと、死んだ曽祖母ちゃんがよく話してくれていたのを思い出した


 この神社、ヤマト神社は、

 3匹の動物の遣いが居る神社に祀られている神様は簡単に言えば土地神様

 便宜上、ここに御座す氏神様は本名では無いらしいが神社の名前と同じ大和と名乗っているし、周りからもそう呼ばれていたりする

 神様と言ってもよそのから来た人から見るとこの町の人間と神社の者達との距離は随分と近いらしい



 3匹の動物はというと

 先程、出迎えてくれた兎の耳のうさ子ちゃん

 そして会話に出ていた、きつね子ちゃんとたぬきちくんがその3匹となっている


 うさ子ちゃんは代々この神社に使えている一族の今代の巫女らしい

 きつね子ちゃんは、コンコン狐のきつね子ちゃんとよく自分でも、周りにも呼ばれているがコンコン狐という沢山あるうちのひとつの種族名だとばあちゃんが昔教えてくれた

 此方は様々な神社できつね子ちゃんの一族に会うことが出来る言わば派遣社員のような一族と前に本人が教えてくれた

 最後にたぬきちくん

 たぬきちくんは大昔神社の近くで家族とはぐれ怪我をしていた所を神様に発見されて、今に至るらしい。大雑把で口が少し悪いが面倒見がいいので近所の子供たちからの人気者

 俺も昔よくたぬきちくんに遊んでもらっていたものだ


 最後にこの神社の主である土地神様

 特にこれといった伝説や力は持っていないと本神はよく言っているが俺達住人からは優しくていつも寄り添って、護ってくれる、そんな大好きな存在だ

 まぁたまに人間と人外の感覚の差に驚く事もあるらしいがこの町の者にとってそんなものは許容範囲内というもの



 なんてずらずらと考え事をしているとどうやら目的の部屋に着いていたようだ

 引き戸に手をかけ、息を吸い扉を開けた

「失礼します。誠です。挨拶にーーーーー」






「さて…と、何を作りましょうかね」

 古い建物にしては近代的な台所で長い耳をぴくぴくと動かし、先程誠から受け取った野菜を眺めうさ子はうーん…と頭を捻らせた


「トマト…はそのまま出して主食は…」

 ──うさ子や、私は、ゴーヤチャンプルが食べたいです──

 こいつ直接脳内に…!!なんてボケが出来そうなテレパシーを送ってきた人物…いや神物…?はこの神社の主である神様の大和の物であった

 わぁ、とうさ子が驚き声を上げながら声の主に疑問を飛ばした

「あれ?主様あるじさまは今誠くんと話しているんじゃ…」

 ──実は…お腹が空いてきたので分霊を造って其方に押し付けました──

「あらまぁ、ダメですよ!」

 ──はぁい──


 クスクスと小さい子供を叱るように注意しながらもリクエストの品を用意するため軽やかに動き出した




 ───────────────────


 まず、青々としたゴーヤを手に取り、それをタテ半分に切り、種をゴリゴリとスプーンですくい取る

 そのゴーヤを薄切りに切って、ボールにゴーヤと塩をひとつまみ程入れ少し揉み、五分ほど置いておく


 ──うさ子先生、何故ゴーヤに塩をまぶすんです?──

 ゴーヤ塩につけてても塩っぱくなりませんよね?

 そう鮮やかな包丁捌きを眺めていた神がふと疑問を呟き、うさ子はそれに笑みを零しながら答えた


「あぁ、なんでもゴーヤの苦味が無くなるらしいのですって

 でも、その苦味の成分も健康にいいのであまりやり過ぎはダメみたいですよ?」

 そう答えが返ってくるとへぇそうなんですかと興味深そうな声が返ってきた


 冷蔵庫から木綿豆腐を取り出し2cm角にちぎって、ザルに上げて水気をきり、

 一緒に出した卵を3つ綺麗に割り皿に落としていく

 まん丸おつき様のような黄身を泡が立たない程度に溶きほぐす。

 豚肉は3cm幅にトントンと切り、塩とこしょうをまぶしていく

 まぶし終えたら、フライパンを取りだし油大さじ1/2を熱し、先程ちぎった豆腐を並べ両面を焼き上げていく



「あ、なんかいい匂いがする!」

「おかえりなさい、誠くん」

 ──おや、終わりましたか──

 挨拶から戻ってきた誠は早速ぐぅーと腹を鳴らしながら台所に入って来ながら目的の人物を睨みながら口を開いた


「ただいまです、うさ子ちゃん

 あと、やっぱりこっちに居たのか神様…」

 ──あらら、やはりバレてましたか──

「もぅ…あららじゃないですよ!」


 クスクスとイタズラがバレてしまった子供のように笑う神様をはぁ…と苦笑いで注意しているとむぅ…と誠からの不満の音が上がった


「絶対笑ってますよね?見えてないけど笑ってますよね?うさ子ちゃんの反応からして!!」


 全く…と腕を組んで仕方ないというように首を降っている誠にうさ子は、あっと口を開いた

「誠くん、申し訳ないんですけど、手を洗ってきたら食器出してくれません?」

 出すの忘れちゃって…と恥ずかしそうに笑う声にはぁいと元気な声が返り、ドタドタと慌ただしく動き始めた



「さて…残りもやっちゃいましょう」

 先程焼いていた豆腐を1度取り出し、

 フライパンに新しく油を大さじ1ぐらい引いて熱し、3cmだいに切った豚肉、五分ほど塩に付けておいたゴーヤの順に炒め、顆粒出汁をふり、

 フタをして弱火で2分ほど蒸し焼きにする。


 調理が一段落した所で後ろからぐぅーと大きな音とうさ子を呼ぶ声がした

「お皿出しときましたよ

 …あー腹の音が止まらない…」

「まぁまぁ、もう少しで出来るので座っててくださいな」

「やったぁー!」

 ワクワクとした2つの気配を背後で受け流しながら、パカりとフタを取る

 取り出した豆腐を戻し入れ、溶き卵、しょうゆ小さじ1を回しかけ、ひと炒めして完成


 味見にちょこっと箸で摘み、熱々のゴーヤチャンプルを口に運ぶ

「うん…上手に出来た!」

 ちょうどいい苦味と夏に欲しくなるしょっぱさ、我ながら上手く出来たようだ


「お!完成?ご飯盛り付けします!」

 ──おぉ!美味しそうですねぇ!──」

 ポンッと弾けた音がした場所に現れたのはうさ子と同じ長い耳を持った…簡単に言えばうさ子の男バージョンのような姿だった


「わぁっ!ちょっ、いきなり姿表さないでくださいよ!!

 ってか、あれ?神様今日はうさ子ちゃんなんですか?」


「ははは、神通力的なのの消費を抑えるために…つまりは節約です」


 ニコニコと話している2人を横目に盛り付けと簡単にサラダをパッパっと作ってしまう


「よし…出来上がり!

 2人とも、出来たので遊んでないで席に着いてくださいー」


「あ、はーい」

「はぁい」


 バタバタと席に着き、みんなで手を合わせて


「「「いただきます」」」




 ───────────────────





 うさ子ちゃんが作ってくれた美味しい料理を食べながらふと俺は疑問に思った事を目の前でもぐもぐとお弁当を口に付け幸せそうにご飯を食べている神様に聞いてみた


「そういや神様ってそんなに本体?から離れてご飯食べて大丈夫なんですか?」


「はて?大丈夫とは??」

 もぐもぐと咀嚼していた口を止め、何が?とでも言いたげに首を傾げているのを見て苦笑いしてしまう


「あぁ、いや、この前会社の営業の方で隣町の神社に挨拶に行ったんですよ

 その時手土産を渡したら、集まりの時しか物は食わんのだが…って微妙な顔をされてしまって…」


「隣町…というと龍の土地神様の所ですね!」

「龍の所ですか…

 まぁ私、これでも土地神の方ではかなり力の強い神なんですよ

 信仰心とか、あと供物としてご飯食べてるので」

「供物になるんですか? それ」

「うさ子や、他の子達が買ってきたり、住人の皆さんがおすそ分けしたりで、供物に分類されるんですよ」

「なら他の神社もやったりしないんですか?」

「他の所は、そこまで強くなかったりするので…」

 んーと、と唸りながらうさ子ちゃんがうちの神社ぐらいじゃないですか?ご飯食べるの

 と苦笑いしながら神様を見つめていた

「私は、ご飯が食べたくて強くなったようなものです

 神様だって美味しい物が食べたいんですよ!!」


 いつになく、力ずよく言う神様に俺は

「あぁ…そうですか……」

 と力無く苦笑いで返事をするしかない

 何ともまぁ…気の抜ける回答であった






「御馳走様でした」

 3人で手を合わせ食事を終えた

 カチャカチャと食器を洗う音とうさ子ちゃんが入れてくれた緑茶をズズズと啜りながら心地よい空間でぼぉーっと過ごす


「なんか…忘れてるような…」


 カチリ、カチリと1秒事に時を刻んでいた振り子時計がボーンボーンと音を鳴る音を聞きふと記憶に引っかかっていた事を思い出し慌ててあ、と立ち上がり机を揺らした


 いきなり慌て出す俺に向いで新聞片手にお茶を飲んでいた神様が驚いて居るが今はそれどころでは無い


「うぉっと…どうしたんです?」

「やべぇ…妹の楽器受け取りに行かなきゃ…」

「妹ちゃん、中学から吹奏楽部に入ったんでしたっけ?」

「そうそう

 あー楽器屋の爺ちゃん、今日早めに店仕舞いするって言ってたけど間に合うかな…」

「あぁ…ここからだとあの店は遠いですもんね…

 車などに気を付けて帰りなさい。

 …あぁ、うさ子土産を」

「はい」


 慌てて帰りの支度をしていた俺にうさ子ちゃんがそっと銀色の保冷バッグを差し出す


「?これは…?」

「お寺のお爺様とお婆様がこの前此方にいらした時にお漬物が食べたいと言っていたので」

「お漬物…炎天下だけど大丈夫…?」

「糠ごとタッパーに入れてますし、保冷剤も入れたので大丈夫かと…」

「あと私が神的パワーでちょちょいと」


 そんな事を言われながら渡れたバックは想像よりも軽かった

 多分、神的パワーって、この事を言ってるんだろう

 有難く受け取り玄関で別れを告げる


「お邪魔しました、美味しかったです」

「また、皆さんでいらしてください」

「えぇ、近いうちに皆で来ます」


 バイバイと見送りをしてくれる2人に手を振り返し、目的地へと急ぐため日差しがサンサンと降り注ぐ地面を勢い良く蹴った

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る