第7話 初デート最後の思い出
「あまり時間ないね。どうしようか…」
お花畑を出た後、私とりょうたはちょっと離れた場所にある地元の小さなショッピングモールに到着して、りょうたがスマホの画面で時間を確認しながら呟いた。たしかに、あまり時間はないでも、りょうたともっと一緒にいたいだけどわがままばかり言ってられないよね。そもそも、寝坊したせいでデートの時間が減ってしまったのが悪いしね…
「ちょっと買い物したい。あまりお金ないけどさ、お兄ちゃんたちみたいにさ、お揃いの何か買おうよ。その後にさ、一緒に夜ご飯食べて帰ろうよ」
「いいね。そうしようか。お揃いで何を買うかは決めてる?」
「うーん。どうしようか…」
お兄ちゃんと春香ちゃんとまゆちゃんは3人でお揃いの指輪を身につけている。しかも全員左手の薬指につけて恋人アピールしまくっていて…見てて羨ましかった。
でも、私たち中学生のお財布ではお兄ちゃんたちみたいに立派な指輪を買ったりはできないだろうし…どうしよう…
「とりあえずさ、雑貨屋さん行ってみる?そういう感じのものが売ってそうなの雑貨屋さんしかないだろうし」
「そうだね。行こっか」
私の返事を聞いたりょうたは、私と繋いでいた手に力を入れて私を引っ張るように歩き出す。
「どうかな?何かいいものあった?」
「うーん。何もないね…」
りょうたの問いに私はひきつった笑みを浮かべて答える。小さな雑貨屋さんなので商品も少ないから仕方ないか…
「春ちゃん、今日は時間ないし諦めようか…その代わりにさ、もうすぐ春ちゃん誕生日だよね?」
「うん。そうだけど…」
「じゃあさ、春ちゃんの誕生日にさ、デートしよう。それで、春ちゃんの誕生日プレゼントってことでペアネックレス買おうよ…りょうさんたちみたいな立派なものは難しいかもだけどさ、僕、お小遣い貯めたりしてるからそこそこの物は買えると思う。どうかな?」
「え…なんか、それは申し訳ないよ…」
「お願い。春ちゃんと誕生日デートしたいしさ、それにペアネックレスのお金は…彼氏として僕が出したいの。お願いします…」
「わかった。じゃあ、そうしてもらおうかな。でも、条件がある」
りょうたの提案はとても嬉しいものだった。でも…私だけりょうたに良くしてもらうのはダメだよね。
「条件?」
「うん。まだ、だいぶ先だけどさ、りょうたの誕生日は私とデートすること…それと…私から誕生日プレゼントはちゃんと受け取ること。それが条件。そうじゃないと平等じゃないから嫌だ。私だけ幸せにしてもらうのは申し訳ないしね…」
「え…春ちゃんが幸せなら僕も幸せだよ」
私が言うとりょうたは真顔で即答した。え、ちょっと、そんな当たり前のことみたいな感じで言わないでよ。恥ずかしいじゃん。あ…でも、私もりょうたが幸せなら幸せって思うし…あーもう。絶対、顔赤くなってるじゃん…恥ずかしい…
「いいから!条件…というか…約束して」
「うん。わかった。約束する。僕の誕生日の日は…よろしくね」
「うん。よろしい」
りょうたと約束をしてから私とりょうたは雑貨屋さんを出る。時間を見るとかなり遅い時間なので、早く帰らないとお母さんに怒られる。
でも、夜ご飯はりょうたと食べたい。だが、初デートの夜ご飯がショッピングモールのフードコートは嫌なので、ショッピングモール内のレストラン街でもっとも空いていたパスタのお店に入る。リーズナブルな値段なので、お財布に優しいし写真映えもする。初デートの食事の思い出としては十分だ。
パスタを注文して、運ばれてきたパスタの写真と向かいに座っているりょうたの写真を撮ると、りょうたも私の写真を撮ってきた。その後は割と急いでパスタを食べてお会計をして、りょうたと手を繋いでバス停まで走りバスに駆け込む。
「はぁ…はぁ…」
「疲れたね…」
「うん。でも…楽しかった。りょうたと手を繋いで走るの楽しかったよ。りょうた、私より足早いけど、私が無理しない程度のペースで引っ張ってくれてたくましかったよ」
「そんなことないよ…」
りょうたは明らかに照れた様子で私に言う。ちょっと褒めるとこれだ。ちょろいなぁ…
私は息を整えた後、並んで座っているりょうたの肩にもたれかかる。りょうたは恥ずかしそうだが、幸せそうだった。この時間もすごく幸せ……
「春ちゃん、今日はありがとう。すごく楽しかったよ」
「こちらこそ。わざわざ送ってくれてありがとう。すごく幸せだった」
バスから降りて少し歩くと私の家の前に着いた。わざわざ送ってくれたりょうたにお礼を言い、初デート最後の思い出にりょうたに抱きついた。すると、りょうたは私を抱きしめ返してくれる。幸せだ…ずっとこうしていたい。もっとりょうたと一緒にいたい。でも…わがままばかり言えない。
だから…
「りょうた、こっち向いて」
りょうたから離れて私がりょうたに言うとりょうたは私を見てくれる。私はりょうたに再び近づいてちょっと背伸びをしてりょうたと唇を重ねた。恥ずかしくて…一瞬しかできなかった。だけど…すごく幸せ……
「じゃあね。りょうた、今日はありがとう。気をつけて帰ってね」
恥ずかしくて耐えられなかった私はりょうたに早口で言い慌てて家の中に逃げ込んだ。
初デート最後の思い出は…温かいりょうたの唇…私のファーストキスは…ずっとずっと、大好きだった人に渡すことが出来た。
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