第5話 心のアルバム
「なんかもう、起きたくない…今日一日ずっとこうしていたいなぁ…」
りょうたと抱きしめあっているこの幸せな時間をずっと味わっていたい。こうしてりょうたと一緒にいられるだけで、私は十分幸せを感じられた。
「そんなこと言わないで、そろそろ起きよう。出かける準備しないと…デートでもっと幸せにしてあげるからさ、起きて…」
「じゃあ、離してよ…」
起きて、と言う癖にりょうたは私を離したくないと言うように私を強く抱きしめていた。
「離したくない…」
「わがままかよ」
「ごめん…」
りょうたは渋々と言った様子で私を解放する。りょうたと離れて寂しさを感じたが、これからのデートが楽しみ。と言う感情に期待を抱いて私はベッドから起き上がり、りょうたを部屋から追い出してさっさと着替えを済ませる。私が着替えを済ませてりょうたに入っていいよ。と言うと廊下で着替えを済ませていたりょうたが部屋に入ってきた。
「今日は髪型どうしようかな…初デートだし気合い入れた感じがいいよね?」
「いつもの髪型がいい」
私がりょうたに借りた鏡をりょうたの机に置いて、肩まで伸びている黒髪を適当に弄りながら髪型について考えているとりょうたはいつも通りをリクエストしてくれた。断る理由はないので、私はいつも通り髪の毛をポニーテールに纏めてシュシュを付ける。昔、りょうたからもらった思い出のシュシュだ。
「どう?変じゃない?」
「うん。いつもみたいにめっちゃかわいいよ」
「えへへ。ありがと」
りょうたにかわいい。と言ってもらえて満足した私は一気に上機嫌になる。我ながらチョロいなぁ……
出かける準備をしていたりしたらお昼の時間帯になってしまった為、りょうたの家でお昼ごはんをご馳走になった。当初の予定よりかなり遅くなってしまったが、私とりょうたは手を繋いでりょうたの家を出る。
「りょうた、今日はよろしくね」
「うん。こちらこそよろしくね」
私とりょうたは手を繋いで田舎の田んぼ道を歩く。ゴールデンウィーク終盤でそこそこ熱い…今日の服装は半袖のワンピースにして正解だったな。と思いながら私はりょうたと田んぼ道を歩く。
「大丈夫?疲れてない?」
結構歩いた時に、りょうたは私に気を遣って声をかけてくれた。りょうたは姉である春香ちゃんに似てこういう気遣いをしてくれるから好きだ。
「うん。大丈夫だよ。りょうたよりは体力あると思うもん」
「そっか…なら、よかった。もう少しで着くはずだから頑張ろうね…」
「まだ着かなくていいのに…」
ボソッと私は呟く。もっと、りょうたと手を繋いで歩いていたいから…
「そんなこと言わないの…一緒に歩くなんていつでもできるし…いつでも一緒に歩くからさ…今、この時しかできない楽しみを優先しようよ」
「うん…そうだね」
いつでも一緒に歩く。そう言ってもらえたことが嬉しかった。たしかに、今しかできない楽しみを優先するべきだな。一緒に歩く日常も大切にしたいが、今しかできないことをきちんと楽しんで、私とりょうた2人だけの幸せを…思い出として心のアルバムに残すこと…それも大切にしたい。大好きなりょうたといっぱい…アルバムのページを増やしたい。
どんなことをして、どんな思い出を作りたいかな…今年は受験とかあるからあまり思い出は作れないかもしれないけど…これから先、時間はいっぱいある。膨大な時間の中で、どんな思い出を作りたいかを、私はりょうたといっぱい話した。そうしていたらあっという間に目的地に到着して、少しだけ寂しさを感じてしまう。
歩き始めた時は遠い道だった。でも、りょうたと一緒に歩いていると一瞬の出来事…あっという間に過ぎ去ってしまった2人で歩く時間、幸せな時間はあっという間だ。きっと…りょうたと膨大な時間を一緒に歩き続けたらあっという間なんだろうな…あっという間に高校生になって、大学生になって、社会人になって、結婚して、幸せになる。きっと、死ぬまであっという間に過ぎ去ってしまうだろう。りょうたと一緒なら…
そう考えると少し寂しい。りょうたと2人で歩む時間をじっくりと味わいたいから…だが、時の流れには逆らえない。だから、この幸せな時間を心のアルバムに刻むのだろう。
りょうたと一緒に歩むことになってから…最初の1ページの思い出…きちんと楽しもう。
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