同じアパートに住んでいるクール美人な先輩が、Gが出る度に部屋に押しかけてくるんだが。

コバンザメ

第1話

俺は同じアパートにどんな人が住んでいるのか全く知らない。というのも、俺は先週このアパートの一室に引っ越してきた。


高校1年になった今年の夏休み中に引っ越しを済ませたという流れだ。

きっかけは両親が仕事の関係でしばらく海外に滞在することになり、一人暮らしをせざるを得なくなった。


引っ越しといっても、通う高校は変わっていないからストレスはない。昔から、妹のために弁当作ってたり、母親の家事の手伝いをしていたから家事にも対して不安はない。


引っ越しで溜まった荷物も片付け終わった。後は畳んである無数の段ボールをゴミ出し場所に持っていくだけだ。


済西高校1年の波木翔は溜まったゴミを出すため、

サンダルを履いて外に出る。


今日も暑い... 夏休みもあと1週間で終わりだ。


2階に住んでいる俺は、強い日差しに照らされ目を細めながら、階段を降りて、ゴミ出し場へ向かう。


ふぅ...重たかった。さっさとクーラーの効いた部屋に戻ろう。


ゴミ出し場から部屋に帰ろうと階段の方に歩いていると、1階の真ん中の部屋から女性が出てきた。


...軽く会釈をして、俺は部屋に戻った。


凄い美人だったな、でも、見た目からして歳はそんなに離れていないんじゃないかな、俺と同じで高校生だけど、事情があって一人暮らしのパターンもあるかも。


またいつか会うかもなー。


よし、そんなことより残ってる夏課題やるか!



ピンポーン ガンガンガンッ ピンポーン ピーンポーンッ ガンガンッ


突然のインターホンの音と玄関の扉を叩く音。


いや、怖いいいいい、なにこれ、今時こんな訪問の仕方する飛び込み営業あります?!

もはや借金の取り立てじゃないか...


急な出来事にビビり散らかしながら、玄関ののぞき穴から、訪問者を確かめる。


するとそこには、必死の形相で息を切らし、綺麗なロングヘアーをぐちゃぐちゃに乱しながら扉を叩く、ゴミ出しの時にすれ違った美人が見えた。


なんとなくクールな第一印象を受けた美人の壮絶な慌てっぷりに言葉を失った俺は反射的に扉を開けた。


ガチャッ



「助けてぇぇ!!!!!助けてください!!!!」


「な、なにがあったんですか!落ち着いてください!」


扉を開けた途端、凄い力で袖を掴んできて、助けを求めてきた。これはまずい、もしかして誰かに追われてるのか、ストーカー被害とかなら大変だ。今すぐ助けないと!

俺は落ち着いてもらうように声をかけつつ、状況を聴くために女性に声をかける。


「ゴ、ゴ、ゴ、ゴ...」


「ゴ?ゴ...なんですか?」


強盗とか?!


手に汗握ったまま、女性の言葉を待つ。


「ゴ、ゴ、ゴキ○リが出たんです!私の部屋に!」


「なんですって!?ゴキ○リ?それは大変だ!今すぐ警察に... て、え? ゴキ○リ?」


「そうなんです!助けてください!」


ゴキブリかい...


「なんだ、ゴキブリですか。」


「そのリアクションは平気な人ですね?!平気なんですよね?! 平気なら私の部屋に来て退治してください!お願いします!」


女性は深々と頭を下げて懇願してきた。


「あ、はい。別にいいですよ。」


なんか想定していたものからゴキ○リへの落差によって。変に冷静になった俺はあっさり承諾した。


「ほんとですか!!?ありがとうございます!

あ、あの、私、水崎琴葉といいます。そこの済にし高の3年です。突然押しかけてごめんなさい。あなたの丁度真下の部屋に住んでます。」


「あ、でしたら先輩ですね。俺も済西高の生徒で、1年です。波木翔といいます。訳あって先週、上に引っ越してきて一人暮らしです。」


「え、あ、そうなんだ...急にごめんね...私も訳あって一人暮らしって感じなの...」


階段を降りながら、自己紹介を済ませる。


「でも、なんで隣の部屋じゃなくてこの部屋に?」


「右の部屋も左の部屋の人も女性が住んでることは把握してて... そもそもこのアパートの、6部屋全て女性しか住んでいないと思ってたんだけど、さっきすれ違った時に、男性の君が2階の真ん中の部屋に入っていくとこまで見てて、男性の方がそういうの得意な人多いから...」


「いや、今まではどうしてたんです?」


「ここに住んでから初なの!あいつが出たのは!」


あーなるほど、それで慌てて俺のとこまできたのか。

てかなんで、ちょっと怒られてんの俺。


水崎先輩の部屋の前についた。部屋の中は普通にキレイだった。


「で、どこに出たんですか??」


「この部屋のクローゼットの下の方に...ごめん、怖いからちょっと外出るね。ゴキジェット50本くらいあるから...使うならその下の収納からとって!」


「あ、いえ、使わないので大丈夫です。」


「え、まさか、君。生きたまま...」


「いや、あいつは熱湯に弱いので、熱湯をちょっとかければ即死します。電気ケトルとかあります?」


「ある。これ使ってっ」



よし、やるか─────




数分で討伐完了した。なんかヒロインをモンスターから守った気分だ。全然違うけど。


「先輩、終わりました。死体も部屋内に存在にしてないので、安心してください。」


「うわぁぁぉぁん、ありがとうっ」


「床は持ってたハンカチで拭いておきましたのでご心配なく。またなんかあったら呼んでくださいねっ、では、失礼します。」


「待って! 待って...」


報告を終えて帰ろうとすると、先輩が俺の袖を掴んできた。


「あいつは1匹いたら、100匹いるっていうし...でも引っ越しは簡単にできないし、また駆け込んだら助けてくれるよね?」


「...分かりました。構いませんよ。任せてください。」


「本当にありがとうっ、波木君。」


結局その日から夏休み最終日まで、水崎先輩が部屋に駆け込んでくることはなかった。






夏休みが明けて最初の登校日。


俺は長期休み明け特有の重たい足取りで登校する。

部活動に入っていない上に、引っ越しでバダバタしていたので、同級生に会うのは久しぶりだ。


「よっ!久しぶりだな波木!相変わらず辛気臭い顔してんなーお前は。」


「久しぶりにあったと思えば、お前はまったく...失礼な奴だ。」


久々の再会にもかかわらず、憎まれ口を叩いてきたのは、小学からの腐れ縁の友人である吉中蓮だ。


サッカー部に所属していて、1年にもかかわらずスタメンで活躍しており、見た目もいわゆるイケメンというやつだ。その上、性格も明るくて男女から人気。顔面偏差値も学力もスポーツも平均の俺からすると羨ましい限りだ。


「今度家行っていい?」


「だめだ。来るな。」


そんな蓮と久々に他愛もない会話をしていると、校門の近くに人だかりができていた。


「なぁ、蓮、あの人だかりはなんだ?」


「あぁ、部活で先輩から聞いたんだけど、この夏休みにできた、3年の水崎先輩のファンクラブだな、ありゃ。」


「水崎先輩...って、あの」


「お、女子に無頓着な翔でも流石に聞いたことあるか!すれ違ったら誰もが振り返るような美人で、かつそのクールな振る舞いから済西高校人気No. 1の水崎琴葉先輩な。」


「あ、あぁ...」


いや、俺が知ってたのは、ゴキ○リに恐れて必死の形相で部屋に凸ってきたポンコツの水崎先輩だが...

そんな凄い人だったのか...


たしかに暑苦しいファンクラブや取り巻きに対しても

焦ることなく、冷静になんなく対応して、女子からの憧れの眼差しも集めていた。


「あぁ、美しく、気高い... 琴葉様...」


ていうか。ファンクラブの人間目がイッてるし...


まぁこんなに遠い人なら今後、校内で関わることはなさそうだな。まぁあれ以来、部屋に駆け込んでくることはなかったし、そもそも関係性はなくなるかもしれない。


蓮と俺は、巻き込まれないように、素早く集団の横を通り過ぎる。



「あ... 」


「どーしたの琴葉?なんか人凄いからさっさと行くよっ」


「うん。分かってる。」






いやー、久しぶりの学校しんどかったな。

今日はかなり疲れたから夜飯は外食ですましてきた。


とはいっても、蓮とも久々に馬鹿話できたし、しんどいことばかりじゃないな。


俺は風呂から上がって、一日を振り返っていた。


にしても、朝の水崎先輩の件は衝撃だったなぁ。あんな人気の人なのは知らなかった。

人気なのはいいけど、あれはあれで大変だろうなぁ...

あと学校ではクールな感じなんだな。意外すぎる。


ゴキ○リとはいえ、あんなに凄い人と関わりを一瞬でも持てたのは、俺の身分を考えたら光栄なことなんだろうな。

先輩の部屋にも、ゴキ○リはもう出ないかもしれないし、俺の存在などそのうちすぐに忘れるだろう。


少し早いけどもう寝よう。

今日は疲れた───





ガンッ ピンポーン


ガンッガンッ ピーンポーンッ ピンポーン ガンッ


ガンガンッ




あ...(察し)


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同じアパートに住んでいるクール美人な先輩が、Gが出る度に部屋に押しかけてくるんだが。 コバンザメ @takuboo

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