第5話 年寄りは笑って戦場に行く


「ううん……あのっさい……あっいや、あのくさー……ふう、やばやば……むにゃ」


 車椅子にすわって寝ている姫川が、いきなり独り言をつぶやいた。


「あー、また姫の寝言か」


 すかさずツッコミを入れる平田公平。

 姫川が寝言で筑後弁を博多弁に修正した。

 それを気にしての発言らしい。


 そんな平田も、車椅子に身をあずけて気だるそうだ。


「悪口は、そこまでだ」


 ただ1人立っている藤堂徹。

 片手を姫川の車椅子に添えているのは、いつでも介助できるようにだろうか。


「………」


 美原佳奈江は、戦闘中の大活躍が嘘のように静まりかえっている。

 あの母親然とした凛々しさ優しさは微塵もない。

 もともと軽いアルツハイマー症だったため、【回復時間】になると元にもどるらしい。


「皆さん、ご苦労様です」


 第1強襲魔導小隊が勢揃いしている部屋に、鈴木優太小隊長が入る。


 この部屋は、帯広飛行場の敷地内に建てられた特設の居住家屋内にある。

 見た感じ、どこかの介護施設かと思うほどだ。

 しかも隊員の宿舎とは繋がっていて、いつでも行き来できる。


「さっきから、ドアのむこうで入るタイミングを計ってたくせに」


 部屋に入った鈴木に対し、安芸妙子が声をかける。

 口の悪さでは平田に負けない。

 車椅子に座っているが元気そうだ。


「あれ? 安芸3尉は、遠隔視能力の持ち主でしたっけ? たしか資料には……」


 とたんに鈴木が思案顔になる。


「あんたの魔導波、じゃじゃ漏れじゃん」


「えー、そんなに出てます? 一応は訓練して、できるだけ出ないよう気をつけてるつもりなんですけど」


「隊長さんってば……なんで自分が魔導小隊に転任させられたか、本当に知らないの?」

「はあ……」


 自分でも不思議に思ってるくらいだから、知っているはずがない。


「あたしっちが戦ってる時、隊長さんと乙音ひかりちゃんは、かならず後方で待機してるでしょ?」


「あ、はい」


「魔導バリアを張りまくるひかりちゃんは当然にしても、そこに隊長さんがいる意味、わかってる?」


「いいえ、全然」


「だよねー」


 盛大にあきれる仕草を見せた安芸が、あらためて真顔になる。


「あのさあ、敵から見た場合、こっちの状況って、どう見えると思う?」


「………?」


「うちらは人間としては規格外のMPを持ってる。だから体外に漏出する魔導波も格段に強い。敵軍はこっちの魔導波を本能的に感知して強敵が現れたことを知る。そして大いに恐怖した結果へろへろの腰砕け……どう、ここまでは理解できる?」


「はい。それなら赴任時にレクチャーを受けました」


「はあ……そこまでわかってるなら、あとちょいだけどなー。あのね、敵から見ると魔導小隊は、恐ろしい魔導波の塊に感じられる。なのに後方には、さらに段違いにでっかい魔導波を出すバケモノが2人もいる。うわっ、とても先には進めない! って絶望するじゃん。そう思わない?」


「あー」


 ようやく鈴木も、安芸の言いたいことが理解できた。


「つまり自分と乙音君は、うしろに控えてる最強の秘密兵器に感じられるわけですね?」


「その通り。隊長さんはMPだけは日本一って認定されてる。それを利用しない手はない。そう、頭のいい誰かさんが考えたわけよ。だから隊長さんは、こうしてここにいるってわけ」


「あははは……」


 乾いた笑いしか出ない。

 よりによって自己嫌悪している原因が、あろうことか昇進と栄転の理由だったらしい。


 その時、大きなあくびをして姫川が目をさました。


「あ、先任3尉、おはようございます」


 愛想よく言ったつもりだったが、とたんに姫川の顔がけわしくなる。

 同時に全員が凍りついた。


「うわー」

「やっちまった」

「隊長殿、それ禁句だ」

「………」


 それぞれが……いや、美原佳奈江を除く全員が、まるで可哀想な生き物を見るような目で鈴木を見ている。


「あっ! そういえば中隊長に注意されてたんだっけ。姫川3尉の名前を、絶対に本人の前では言うなって」


 たしかに【亀子】では、せっかくのゴスロリ美少女も台無しだ。

 でもだと、その名はごくありふれたものだったはず。1世紀ちかい時間経過は、あまりにも残酷だ。


「もう遅かばい!」


 姫川がこめかみに青筋を刻みながら、手元にあった熊のぬいぐるみを投げつける。

 しかしそれは、途中でへなへなと力つきて落ちた。


「あーん、回復中やなかなら、首ばきびってやっとばってん……」


 翻訳すると【回復中でなければ首を絞めてやるところなのに】となる。

 力が出ないのが、すごく口惜しそうだ。


 鈴木と一緒に入ってきた久米麗香准尉が、ころあいを見て声をかける。


「はいはいはい、皆さん。まだ回復時間中なんですから、おとなしくしててくださいね。どうしてもきつい方は申し出てください。魔素水添加リンゲル液の点滴をしますので」


 久米は第1支援分隊のリーダーで47歳。

 恰幅のいい女将さん風ながら、介護福祉士だけなく看護師長の資格も持っている。


「皆さん、どれくらいで回復するんです?」


 久米に助け船を出された鈴木は、隣にいた支援分隊の琴浜月准尉に尋ねた。

月と書いて【あかり】と読む。読めないよなー。


 支援分隊は年齢層からか、キラキラネームが多い。

 屋形希望もその1人で、希望と書いて【きらら】と読むそうだ。


「えっと回復時間ですか? 人によってバラバラですけど、SP値がすくない人ほど回復時間は長いって教わりました。だから第1魔導小隊では、姫川さんがもっと長くて19時間くらい。もっとも短いのは藤堂さんの8時間かな」


「ああ、だからか」


 鈴木が勝手に納得したのを見た姫川が、うざったそうに文句を言う。


「なんば1人で納得しよっと。尻ん青い若造でん、いちおーウチらん指揮官なんやろ? なんか気付いたら説明せんといかんて思わん?」


「前の小隊長のほうが、てんで気が回ったよねー」


 優太の発言が、かなり気に触ったらしい。

 口は悪いが悪口は言わないはずの安芸が、珍しく悪意を込めて姫川の味方をした。


 第1魔導科連隊司令部には、鈴木の直属上官となる白滝翔中隊長がいる。

 赴任した時、まず最初に白滝から言われたのが、の通達だった。


 中隊長によると、前の小隊長はパラグライダーによる降下地点が敵軍寄りになりすぎて、第1魔導小隊の突入前に敵軍前衛部隊と接敵してしまったという。


 そして、……らしい。


 最後の瞬間の光景は言葉を濁されたものの、相手は重装オークということなので、まず斧による斬撃から噛みつきに移行、そのまま肉片を骨ごと食いちぎられた……そう想像できる。


 集団で襲われたら、骨すらなくなるのに数分しかかからない。

 いかに魔導小隊員が必死になって救援に入っても、おそらく助からなかっただろうという話だった。


「先任の小隊長には敬意を覚えます……」


 後任としては、そう言うしかない。


「死んでしまったら駄目だろが!」


 平田の怒り声が部屋に響いた。


(あー。先任の小隊長、けっこう慕われてたんだなー)


 平田だけではない。

 魔導小隊員の誰もが、怒りの魔導波を隠そうとしない。


「鈴木隊長さん……あんた若いんやから、ウチらが仕事ば終えるまで、後方の安全な場所でしっかと見とればいいんよ。ところで……回復時間中は面会謝絶のはずじゃなかと?」


 出撃した後の回復時間中は、たしかに面会謝絶となっている。

 その間、彼らに接していいのは、時代から世話をしている第1支援分隊員だけだ。


 たとえ基地の医官や看護師であっても、久米麗香支援班長の許可なしには接触できない決まりになっている。


「知ってますよ。回復期間中は、【劣化ソーマ】を使用する以前の年齢相当まで、体力と気力が戻ってしまう。そのため指揮下の小隊員ではなく、あくまで老齢者として、敬意をもって対処するようにって厳命されています」


 得意げに自分の知識を披露した鈴木だったが、またもや皆の逆鱗に触れたらしい。


「あんたなー。今後も俺たちと一緒に戦いたいなら、最低限の礼儀くらい……」


 平田の苦言を、久米麗香がやんわりと制する。


「小隊長さんは、特別の報告があるから無理に入室を願われたのよ。そうでなければ、この私が通しません」


「特別な報告?」


 意外だったらしく、姫川が驚いた顔で聞いた。

 久米にうながされて、鈴木は喋りはじめた。


「ええと……。皆さんが帰還された後のことです。日没後に、ふたたび敵軍の襲撃が発生しました。しかも侵攻目標は旧釧路地区ではなく、この帯広基地方面でした」


「こっちに来たん? どげんして、この場所ば知ったとやろか」


 姫川が疑問に思うのも当然。

 帯広飛行場が襲われたのは今回が初めてだからだ。


「敵軍は以前から複数の手段で我々を監視していたらしく、断片的ながら帯広飛行場の存在にも気づいていたようです」


「遠隔視魔法やと、魔人でん中堅以上やなかと行使できんはず。今回ん敵にゃ、そげな大物が来とると!?」


 いつもの雑魚だけだと思っていたらしい姫川が本気で驚いている。


「あくまで推測ですけどね。でもって敵の夜間襲撃には、第2強襲魔導小隊が出撃しました」


「うーん……かー」


 平田が眉をしかめながら口をはさむ。


「はごろも隊てさ、得意なんは遠隔迎撃やろ? 近接戦闘員はちょびっとしかおらんかったはず……そばってん、いきんしゃったんかー」


 自分の記憶がおぼろげなのか、姫川が横にいる藤堂に聞く。

 回復時間中は記憶力も老人なみに減退するから、そのせいかもしれない。


 ちなみに……姫川の本当の年齢は97歳だ。

 藤堂は88歳。美原佳奈江は82歳。安芸妙子は80歳。

 平田公平が最も若いが、それでも74歳だ。


 彼らは同じ老人ホーム出身で、ハーフエルフがもたらした【劣化ソーマ】により、肉体的に若返った年寄りたちである。


「第2小隊に盾役はいない。かわりに大剣使いが1人いる」


 盾役がいないことを、藤堂はさも残念そうに告げた。


「そげんやと苦しかねー」


 夜間の歩兵を中心とする襲撃は接近戦になりやすい。

 混戦になったら、不意の突入を阻止する盾役は不可欠だ。


「……その通りです。彼ら第2小隊は敵軍を撃退しましたが、中間遊撃担当の当条千尋ちひろ3尉が


「………!!」


 声にならない動揺が走る。

 3個ある魔導小隊で戦死者が出たのは初めてだ。


「なして!?」


 姫川の甲高い声が響く。


「今度の敵には、以前には見られなかった陸上突撃騎兵が、少数ですが参加していたそうです。魔人の乗る騎兵だったそうです。その騎兵の群れが第2魔導小隊の遠距離攻撃をことごとく阻止し、まっしぐらに突っ込んできたそうで……どうやら鬼人種の騎兵だったようです」


「魔人の部隊……第2小隊だけやと無理ばい!」


 鬼人種となれば最大級の突進力をもっている。

 乗っている騎竜も大型だ。

 藤堂のような大型盾持ちの前衛でなければ、簡単に跳ね飛ばされてしまう。


「はい。そこで基地防衛網の主力となっている、04式3センチ近接電磁砲を使用しました」


 3センチ固定タワー式直射電磁砲DEMCは、近接防衛のゴールキーパーとして設置されている。従来型の遠隔操作で、3センチ重金属合金ペレットを連射する基地近接装備のひとつだ。


 こいつは飛距離を極限まで犠牲にして、連射能力と初速の大幅増大を計っている。

 そのため距離5キロ以内なら、姫川の魔導レールガンと同等の威力を発揮する。


 しかも魔法付与や魔法術式を用いない、純粋な地球科学だけで稼動する固定装備のため、一般自衛隊員でも操作が可能なのだ。


「近接電磁砲は広域特殊戦闘団における拠点防衛の切り札ですので、これで撃退できなければ打つ手はありません」


「あれば射ったんか……」


「まあ……さしもの魔人も、瞬時に着弾する重加速弾を連続して食らえば死亡します。事実、大半の敵騎兵が投げ出され、中には阻止魔法が間に合わなかったのか、魔法付与された鎧を貫通された魔人もいたそうです」


「効き目あったんだ、あれ……」


 既存兵器を信じていない平田が、心底から驚いている。


「ばってん……しょーんなかこつに、第2小隊の救出にゃーぜんぜん役に立たんかった……そうやろ?」


 基地固定の近接電磁砲では、数キロ先で戦っている第2小隊は救えない。


 いまの自衛隊に、魔人が戦っている現場へ突入し、孤立している第2小隊を救出する能力はない。どちらかといえば魔導小隊のほうが、その役目を担っている部隊なのだ。


「第3小隊は、どげんしたとよ!?」


 自分たちが出撃できるなら真っ先に出ている。

 それが無理なら第3小隊の出番となる。


「すぐ出たそうです。ただ……強襲降下と違い、とっさの地上戦の場合、現場まで戦闘機動車で突入しなければならず、荒れた地形で難渋しているあいだに撃破されたそうです」


「いちおうは出たんか……」


 何をしてもダメだったと理解したのか、姫川はがっくりと気落ちしている。


「皆さんのお仲間が戦死なされたことを、広域特殊戦闘団も重く受け止めています。そこで直属上官の自分が緊急面会の許可をとって報告しにきました」


「……って、死んじまったあとで報告にきても、なんの意味もないだろが」


 平田が口惜しそうに言葉をもらす。

 それを見た姫川が、意外なことに落ち着いた態度で言った。


「そげん言うもんやなか。隊長さんば寄越したとこば見っと、上んほうは、今後ん出撃に関する判断ばウチらに一任すって気になっとうみたいやね。そげんじゃなかと、うちらの顔色ばうかがうなんちゅー、気色わるかことはせんはず」


 鈴木がきた意味を、姫川はきちんと察している。

 こういった時の彼女は、たとえ回復時間中でも超能力者なみに鋭い。


「その通りです。皆さんは自衛隊の階級こそお持ちですが、実質的には民間人による志願……しかも戦闘への参加さえ自己判断を大前提として契約なされてますから、皆さんの反対があれば、作戦そのものが実施できなくなります」


 なんと鈴木の口ぶりでは、強襲魔導小隊は自衛隊内のボランティア組織であり、姫川たちは自己判断で戦っていることになる。


 あまりにも憲法の内容から逸脱した措置は、戦時下の自衛隊でもできない。


 いまの日本では、度を越した法解釈は【立法の暴走】と受け止められる。それを最も危惧しているのが、各県から選出された【日本議院】の議員たちだ。


 いずれ自分たちは、正式の日本政府へバトンタッチする。

 その時に、権力を握っていたあいだに好き勝手したと言われることを、いま最も恐れているのだ。


「そげんこつ……志願ばした時からわかっとったばい。戦死すっかもしれんこつもたい。どうせ寿命なんて、あと何年あるかどうか……わからんこつは、どーでんよか」

 

 方言を考慮しても、姫川が何を言おうとしているのか理解できない。

 それでも鈴木優太は、辛抱強く話の続きを聞いた。


「歳とると、若か頃にあげんしときゃよかったて思うこつが、ものすごある。そいが今は、思うがままに出来るったい。こげん嬉しかこたなか。劣化ソーマで若こうしてもらえんかったら、いまも老人ホームで、しょーもなく死ぬとば待っとーだけやった……」


 かなり各九州弁が入り交じった話だったが、鈴木にもかろうじて理解できた。


「……我々自衛隊に対して、なにを希望なされるんです?」


 鈴木が小隊長をしているのは、あくまで姫川たちと自衛隊を結びつけておくためだ。

 上官なのに指揮権もなく、たんなる小間使いや伝言役になっているのも、彼女たちの特殊な立場のせいである。


「……せやんこつ、どげんでんよか!」


 鈴木の言葉が勘にさわったのか、いきなり姫川の語気が荒くなった。


「ウチらんこつは、じぇんじぇん気にせんでよか。自衛隊は、たいがな大事かこつば考えんと。政治家と自衛隊は、一般国民ば守っちゃらんといけん。そんための道具がウチらなんやけん、道具はばり使わんと!」


「いや、それは……」


 老人を若返らせて戦争をさせる。

 それを道具と割り切るのは、旧日本軍の悪弊の反省から、自衛隊では絶対に認められない。


「ただでん半分以下に減ってしもた人口ば、これ以上減らすわけにはいかんやろーもん。死ぬんは年寄りにまかせんしゃい。若いモンは、日本の復興に集中すればよかて。だいじょうぶたい、うちらが守るけん。もしウチらが死んでん、そんあとに続く年寄りがおるて。孫と子ば泣かすもんがおるなら、年寄りは笑って戦場に行くばい」


「自分だって……戦えるなら戦いたいですよ」


 思わず鈴木は本音を吐いた。


 本来なら若い自分たち自衛隊員が、姫川のような老人を守るのが道理だろう。


 鈴木がかつて防衛大学を目指したのも、大災害のたびに、最前線で一心不乱になって命を救う自衛隊員を見たからだ。いつか自分も、日本に住む弱い立場の人たちを救いたい……そう思ったからだ。


「あ、えーと。小隊長が鹿なんは知っとるよ。ごめん、いらんこつで、はらかいてしもた」


 いきなり姫川の口調がおとなしくなった。

 鈴木が気にしていることを不用意に口にしたと思ったらしい。


 いかに興奮していても、孫か曾孫ほども歳が離れている男の子が自己嫌悪していることに触れるのは、まともな年長者のやることではない。


 ちなみに……。

 MP馬鹿とは、MPは高いが魔法を使えない者をさす自衛隊内での隠語だ。

 公式には【魔法無能力者】と言われている。


 無能力者は、どこにも行き場がなくて取り残される。

 鈴木はズバ抜けて途方もないMP値だったため、もしかすると強襲魔導小隊なら使いみちがあるかもと判断されて、こうしてここにいる。


 だが他の大勢は、いまも日本国内の自衛隊駐屯地で、配属部隊も不明瞭なまま待機状態になっているはずだ。扱いも一般兵員だから、一時は高MP者としてもてはやされたぶん、居心地も悪いに違いない。


 彼らは、なのだ。


 それでも飼い殺しにされているのは、MPがあるせいて魔素中毒から逃れられたのだから、なにか天の采配があるかもしれない……そういう一部の期待があるからである。


「はいはいはい、皆さん。そろそろベッドに行きましょうね」


 状況を察した久米支援班長が、ぱんぱんと手を叩きながら、4名の部下へ指示を出しはじめる。


「各担当の支援分隊員は、さっさと車椅子を押す! それじゃ小隊の皆さん、それぞれ回復時間になったら起こしますので、気にせず寝てください。その後に食事となります」


 その上で、自分も美原佳奈江の車椅子を押しはじめた。


「あらまあ、……。また面会に来てくれたの? 嬉しいわあ」


 どうやら美原は、久米麗香のことを面会にきた家族か誰かと思っているらしい。

 完全に老人ホームにいた頃にもどっているようだ。


「え、あの……自分はどうすれば……」


「鈴木小隊長。面会時間は終わりです。先ほど姫川さんが言われたことを、そのまま上官に報告してください。それで通るはずです」


 これ以上は1秒も許さないとばかりに、久米はひしゃりと言い切った。

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