迫り来る脅威

 王がポケットから取り出した手紙には、このような内容が記されていた。


「初めまして、ディネクスの王。私はストリンの王クォートという。君の国は建国からそこまで歴史が浅いにも関わらず、急速な文明開化を見せていることに目を見張る思いだ。とても羨ましい。

 だから私は君の国はストリンの傘下にしたいと考えている。君のところがどうしてそこまで急速に文明を発達させてきたかは分からないが、私はその成長力が欲しい。


 傘下に入った後の心中を察するが、ちゃんと良い待遇を約束しよう。強制はしない、だが断ったとなれば、こちらの対応もそれなりのものとなるとだけ言っておこう。それも近いうちに。


 追伸。君の軍隊達の急逝、とても悲しいと思う。しかもその原因は、ディネクス屈指の魔法使いだとか。何故そんなことをしたのか皆目検討つかない。だが同情はする、そんなタイミングで宣戦布告をされてしまったことを。」


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 何だこの手紙は?

 オウグからおもむろに取り出された手紙を凝視して、この送り主が何者なのかが気になっていた。


「君はジニアからかカレンからか、あの時の事件を聞いていたようだから話そう。あの時のモンスターの進撃を食い止めるために派遣された軍の中に、複数の兵士が、ある謎の黒いマントを羽織っていたことが分かったんだ。そして、黒いローブを着た男もちらほらと確認されている。その事から察するに、その黒ローブの男が幾つかの兵士にそのマントを配り、そのマントの力によってジニアの魔法を吸い寄せさせたと見て良いだろう」


 そういうことか。

 カレンはその事を最初から知っていた唯一の者。それにカレンはその職場の他の連中と違い、ジニアの潔白を信じていた。だが他の連中はジニアを忌み嫌っていたそうだから、この王が真実にたどり着くまでに時間を要したのか。意見が多ければ自然と多数の言葉を採用してしまうからな。


 それがなければ、ストリン...という国の仕業だと早期発見でき、ジニアも勘違いで消えることはなかった。


「文面を見てわかる通り、ストリンが攻めてくる。それももうすぐ。あれを見てくれ」


「あれ?」


 見てみる。オウグが指差した方向は、窓から街のその更に向こう側。太陽が昇ろうとしている淡い光を携えて地平線の彼方から、徐々に、煙がもくもくと立ち込めていた。


「おい、これまさか」


「あぁ、来てるね」


「ヤバイだろ!早く何とかしないと」


「大丈夫だ、既に我が臣下達が、配備されている。だが、それでも敵わないかもしれない」


 ならどうする?諦めてストリンという国の傘下に、


「だが負けるつもりもない。他人に国を奪われて、その後国民がどう扱われるのか。それはご先祖が書き記した手紙からわかる。人を人として扱われなくなるかもしれない」


「だが戦っても勝ち目はないんだろ?なら」


「勝てる、余が戦えば、『余だけ戦えば』、まだ勝機はある」


 Tシャツはふざけている。さっきまで親戚のお兄さんの如く振る舞っていた彼の目には、覚悟の決まった炎が灯っていた。


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 かつてギルドにて、メイちゃんが転移者の誘拐について話してくれた。そこから私は秘密裏に転移者の保護に努めており、サツキだけでなくいくらかの転移者をギルドに保護していた。それに転移者は身寄りのない状態だから、ギルドに集まる依頼をこなさせることで、自分で生活できるように指導もしていた。


 だが、それでも誘拐は減らなかった。助けた側からその転移者は行方をくらませる。だから、サツキもあの時の皆みたいに、人知れずいなくなるんじゃないかって。心配だった。


 未明。20時間は経過しているだろう。穴を開けることが出来たため何とか呼吸をすることができるものの、相当ガチガチに固められた泥はそう簡単には砕く事ができない。


 だが、隣でその泥が砕ける音が聞こえた。


 ドゴロロロ!


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 はぁはぁ、と隣で呼吸を整える音が聞こえる。ディネクストップの魔法使いであってもここまで無力感させられるとは。あの蛙の封印魔法には目を見張る。

 私はジニアの声を聞いて叫んだ。


「外からこの穴に力を!」


「お前もな!同時にやるぞ!」


 中と外から同時に魔力を注ぎ込み、内部で広げる。


 ドゴロロロ!

 私の身体中から泥の欠片が崩れ落ちた。久々の空気が気持ちいい。が、


「ううぇ、きったな!気持ち悪っ!もう最悪!」


「唸ってる暇はない、周囲に泥団子はなかった、あの蛙が二人を持ち去ったんだろう、そうなれば行き先は」


「ローズで確定ね、二人を隠すならあそこの城がもってこいだわ、行きましょ!」


 私たちは魔力で箒を生成し、ローズへと向かうために空高く飛び上がった。

 そのまま全力前進しようと前のめりになる。だがジニアが腕でそれを制止させた。何かあったのか?


「何か見えるの?」


「あぁ、あれを見ろ」


 ジニアが指をさす方角に視線を向ける。昇ろうとしている朝日を隣に、何か大きな砂ぼこりが舞い上がっている。


「何あれ?」


「遠すぎて分からん」


「ならこれの出番ね!」


 私は両手を広げ、星の力を集中させる。

 星の彼方まで遠くが見える物!

 生成したのは、星マークがキラキラと輝く筒である。だがこれで遠くを見ることができる。望遠鏡というやつだ。


「じゃーん!」


「何だこれ?」


「望遠鏡よ、知らないの?」


 そういいつつ、筒の口に目を当てる。遠くの景色が窺えて、砂煙の正体が見えた。


「これは、ストリンの旗ね」


「ストリンだと?妙だな、」


「何で?」


「ストリンはこれといって戦闘に長けた感じの国ではなかったはずだ、なのに、私がいるディネクスを攻めるとは、どういうことだ?」


 自惚れめ。だが確かにおかしい。...と思ったが、


「いやいや、あんた今クビどころかお尋ね者でしょ?」


「それならそれで、何故ストリンが知っている?」


「そりゃギルドでもあんたの顔貼られているくらいだし?他国に伝わっても不思議じゃないとは思うけど...でも確かに、だからって攻めいるような国とは思えないわね」


 妙だ、勝利が確信できる何かしらの秘策がストリンにあれば別だが。

 ...まさかそれが、ディネクスの弱点を知ったとか、国の軍が衰退していることだというのか?

 だがそこまでして戦おうとする意味が分からない。戦わざるを得ない理由が?


 私の中で、例の黒ローブが目に浮かんだ。

 もしそいつがストリンから送り込まれた刺客だとしたら、そして軍の衰退以外に、他にも情報を持ち帰られていたとしたら...!


「とにかく急ぐぞ、胸騒ぎがする」


「えぇ、爆速で行くわよ!」


 流れ星の如く、だが気づかれないようにひっそりと身を隠しながら、地面スレスレで私たちはディネクスの中央都市ローズへと向かった。

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