王の義務

 天気快晴。

 太陽が見下ろしている。

 俺とトウカ、コボ郎は、ディネクスの領土の中、しかも大勢の騎士たちがいる国の入り口付近で待機していた。というかそう言われた。オウグから。


「まぁ大丈夫、我々の王様を信じようよ」


「は、はぁ、そうですね、」


 一人の優しそうな騎士が、カラカラと鎧の擦れる音をたてながら俺の肩に手を乗せる。だがオウグへの信頼などこちとら無い。どころか、あの変なTシャツのまま出向いたものだから、尚更何を考えているのか分かったものではない。


 どさくさに紛れて話を反らされた感じが否めない。「とにかく今は危険だから」と。だがオウグの目は、ただ嘘をついているようにも見えなかった。

 敵と思われるオウグが食堂に訪れたにも関わらず、嫌な予感を感じなかったことも気がかりだった。もしかすると、元々敵ではなかったから、感じなかったのかもしれない。今はそう割りきるしかないか。


 ちなみにトウカは太陽の光に当たりすぎると良くないということで、オウグがわざわざ傘をさしてくれていた。世話焼きだな。南の島とかのリゾート(なんて行ったことないけれど)にあるような色とりどりのパラソルだ。これも転移者の記憶から作ったのだろう。これによって太陽の光から身を守っていた。


 そしてオウグは今、一人で敵の真ん前にいる。

 焼売の玉将のTシャツを着たまま、だが武器商人ポーウェンの最高傑作である太陽の光で煌めく剣を携えて、国民を守る覚悟を、そして救えなかった騎士達の無念を携えて。


 ──────────────────────────────


 遡ること1、2時間前。食堂にて色々とオウグとお話をしていたところから少し後のことである。


「そういえば、この国ってほかに大きい町が三つあったよな?あそこのまもりはどーする?」


「抜かりないさ、国民は地下の町に避難しているし、被害を抑えるためにスクミトライブに守ってもらう予定だからね」


「あー、」


 確かにあの蛙なら多勢でもドロドロにしてくれそうだ、蛇はまだ出会ったことがないから分からないが、蛙と同程度の力量なのだろう。だが、


「あれ...ナメクジって...」


「んあ?」


 カツ丼平らげて満腹中枢ガンガン刺激されている幼女は目が半開きだった。おねむなのだな。

 じゃなくて...やばい、うそ、俺のせい?町一つ手薄になってしまうのって俺が悪い!?アワワワ


「そうだなぁ、一応ポーウェンとメイガスに当たってもらおうかな」


 すみませんお二方。てかあの二人で!?


「心配いらないさ、一線を退いたとは言っても彼らはかなり強いから安心したまえ」


 にやっと確信を持ってオウグはそう励ました。

 知らなかった。ただの武器商人とウェイターかと思ってた。そういえばメイちゃんは、オカマっぽさが全面に出ていて筋骨隆々だったような。ポーウェンさんは...オリジナルの色んな武器を使って戦いそうだ。


 とはいうものの、他にも気になることがある。


「『お前だけが戦えば勝機はある』って言ったっけ?それっておかしくないか、普通なら大勢には大勢で対抗するべきだろ?」


「大丈夫だよ、余には秘策がある。余の祖先から代々継承してきたこの力ならば、むしろ余以外が戦闘に参加することの方が駄目なのだ」


「継承した力って...」


 頭に過ったのは、精霊の森で能転玉を使用した時のこと。

 そういえばあの白い世界にいた黒髪ロングの女の人、確か幸良子さんか。良子さんが言ってた言葉に「継承」という言葉を使っていたのを思い出した。


 まさかこいつもその時みたいに、消えていった先祖から転移者の固有スキルを継承してきたのか、そしてその力を使うために、一人である必要がある、と。


 ならば能転玉を後世に継承するために、わざわざ消えるまで記憶を保持し続けていたのか?


「サツキ君の考えている通りとは少し違うかもね」


「え、はぁ?」


「消えたご先祖さまが遺した能転玉を使った訳じゃないんだよ」


 得意気に俺の頭の中を言い当ててくれやがった。こういう余裕綽々な態度で思考を読まれるとなんか腹立つな。


「そもそも、能転玉があろうとなかろうと、能力の継承は可能なんだよ」


「そ、そうなのか?」


「あぁ、真に必要なのは、持ち主の許可なんだ。持ち主に認められて初めてその力を物にすることができる」


 そういえば、良子さんは「不幸なあなたなら」とかどうとか言っていたような。もし俺が何か良子に認められる要素を持ち合わせていなければ、ゼロ・ハピネスは使えなかったということか。


「で、その受け継いだ力で記憶を奪ったと?」


「あー、記憶を取ってるのはまた別の力でね、初代が当時の友人から継承した力なんだ、だからそれはまた別枠だ」


「別枠!?」


「初代も色々あったってことだろうね、余も文章を読んだだけだから詳しくは分からないのだが」


 一体彼らに何があったのか気になるが、それは今聞くにはとても長くなりそうだ。やめておこう。収まれ好奇心。


「ま、それはいい。とにかく余はその力で一人で勝つ。そして国民を守って見せる。だがもし負けることがあった時のために、魔法使いや騎士たちを配備している、というわけさ」


「負けたときの保険ってことか、でも...」


 一人で大勢と戦う秘策が、当時の友人からではなく、代々受け継いできた初代オウグの「固有スキル」か。そこがかなり不安だった。


 俺の力は「ラックボーナス」。運気によって魔力が上下する固有スキル。だがデフォルトで運が悪いので、ゼロ・ハピネスによって周りから運を吸いとらなければ使い物にならない。


 トウカの力は「感覚を制限することで筋力を上げる」固有スキル(なのかどうかは詳しく聞いてないので分からないが)。筋力が上がろうとも、見えなかったり聞こえなければ使い方がかなり制限される。


 猪熊ケモノは「動物と同化する」固有スキル。どこまでの力があるかは分からないが、ただ能力を使用するだけではなかった。カメレオンに似た生き物レオンと同化した際に、角が生えていた。もしかしたら力を使うために、その生き物のデメリットが発生する恐れもあるのかもしれない。例えば魚と同化した場合、地上で呼吸できないとか。


 推測は混ざるものの、あらゆる能力には、それ相応のデメリットが顔を出す。だから、このオウグが継承した固有スキルがどういう能力かは分からないが、それ相応のデメリットがあるはずなんだ。


「敵がその力の弱点をつくかもしれないが、いけるのか?」


「抜かりはない、この力は余の一族にしか伝わっていない力だ、だから大丈夫だ。皆を守るのは、王族である、貴族である余の義務なのだからね」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とは言っても

「...んん~、心配だなぁ...」

 周囲の騎士たちと共に、オウグの行く末を見届ける。本当にそれだけで良いのだろうか?何か俺たちにできることはないのだろうか?


「...(おーい!)」

 背中をちょんちょんされ、小声で慎重に話しかけてきた。振り返ってみると、ローブを深く被り顔を隠したカレンとジニアがいた。


「あ!二人とっふご...」


「ちょーっと静かにねぇ...」


 カレンが目立ちたくなかったのか、声をあげようとすると口を塞いできた。そういえば、カレンはともかくジニアはお尋ね者だった。それに周りはそのジニアを嫌っていた者だらけ


「ぼべんばばい...ぶはぁ、無事だったんだな」


「近くまで飛んできて、あんたらが見えたから様子を見にね。で、これ今どういう状況なの?何で王様が単独で敵に顔出してるのよ、つーか服ダサいし」


 カレンとジニアに事の顛末を話した。トウカはその間、ジニアに感覚制御魔法をかけてもらっていた。効果が切れていたのだろう。だがべったりとくっつく必要ないと思うのだが、ジニアと長く離れたせいか、ジニア要素も切れていたのだろう(ジニア要素って何だよ)。


「ほぇー、王様がねぇ。大丈夫なの?」


「いや本当にそれだよ、あいつ自分一人でやるって聞かなくて」


 不安がるのももっともだ、彼に命運を預けることになっているからな。

 そうこうしている間に、何やら周りがざわつき始めた。周囲に黄色いオーラみたいなのが充満していく。


「何だ?」


「変な光が!」


「敵の攻撃か!?」


「落ち着け!王は我らを信じてこの国を任せてくださっている、だから我らも王を信じるのだ!」


 何やら顎髭蓄えた団長っぽい人が周りを鼓舞してざわつきを止めた。

 だが本当にこの光は何だろう、光というよりオーラ?ゼロ・ハピネスの時に運気を吸収するあのオーラと似ている。それにとても広い、このディネクスの領土全てを覆っている感じだ。それに何だか、温かい。


「あれ見て!」


 カレンが指をさした先には、オウグが剣を振りかざしている姿があった。

 だがそれよりも、オウグからとてつもない力が溢れている様に見える!周囲に砂ぼこりが煽られ、オウグを覆っている!

 あれが、オウグの本当の固有スキル!?一体どんな力なんだ...!?

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