第二世界へ

異世界転生でも異世界転移でもない。また別の何か。だから何だというのだ。俺はこうして生きている。俺が生きていると思っているのならば、それは異世界転移みたいなものだ。何にも変わらないじゃないか。


これは一風変わった、結局のところ異世界転移だと思っておこう。

そういえば、走馬灯が拾われるならば、おじいさんおばあさんが多そうだが?


「なぁ、聞いてもいいか」


「いいよ」


イヴは元気良く返事をしてくれた。


「死んだ人間は皆、その第二世界に行くのか?」


「いいえ、それは違う。より想像力に長けているであろう人間だけを第二世界で顕現させているわ」


全てではない、だが気になることがあった。


「より想像力に長けているっていう、基準ってなんだ?」


「人類という生物として劣っている人。って言ったら分かる?」


(どういうことだ?)

サツキは首を傾げた。


「人類の、っていうか生物の最終目標は増えること。そのためには一分一秒でも長く生きることが重要なの。そのために生別は生存に有利な遺伝子を残してきた。そして不利な遺伝子は自然と死んでいった」


(進化論的な考え方か)


キリンが安定して食事できる草を食べられるように、首を伸ばしたという話があるがそれは違う。たまたま首の長い遺伝子のキリンが生まれて、背の高い木の草を安定して食べることが出来たため、その遺伝子が生き残った。それ以外は、地上からそれほど高くなく、他の生物も食べやすい草を食べていたため、餌が不足してその遺伝子は残されなくなった。それが進化論だと言われている。


「でも不利な生物の中で、不利でも不利なりに生き残れる種が何種類かいる。その一つが人間なの。本来は弱い遺伝子でも、その状況下で想像し、生きる術を考えることができる生物が第二世界に顕現しているわ。だから人間以外にも、第一世界では絶滅していた生物が生息したりするわね」


「なるほど、つまり、人間の不利な遺伝子は早めに死ぬけれど、その分生きるために想像する潜在能力を秘めていると」


「そういうことね。特に成熟する手前の人類、君にも分かりやすくいうと、20年以上生きれなかった者に限定して、第二世界に顕現しているわ」



20未満、高校生から大学生前半辺りか。何だろう、この絶妙にファンタジーを追い求めつつも、現実を少なからず齧ってる感ある年齢キャスティングは。


これから第二世界に行ったとして、中二病溢れる世界で羞恥心に押し潰されなければいいのだが。


頭を抑えていると、またブンブン腕をふるってイヴが言う。


「とにかく、第二世界から悪い想像力が送られていることは間違いないの。アダムは今も少しずつ悪い想像力に侵食されようとしている。原因を突き止めて、解決してほしいの、お願い!」


イヴは懇願する。上目遣いで、目をうるうるさせて、両手の指と指を織り成して。イヴがどの地域の文化に属しているのかは分からないが、頭を下げずにしたこのお願いは、俺の心をさらに揺さぶった。


<ここらへん>


(か、かわいい!)


アワアワとイヴの愛らしさにうち震えた後、少し視線を地面に落としてから、俺はため息混じりに頷いた。


「はぁ、分かったよ、どうせ死んだ命なんだ。引き受けてやる」


「ありがとう!」


聞いてイヴの顔がパァっと、陽を浴びるひまわりのように明るくなった。


「あ、でもサツキにも何かお礼をしないといけないよね!」


パンと小さく手を合わせた。


「お礼?何かくれるつってもなぁ、あ!チートな能力とかくれよ!再生能力とか瞬間移動とか!」


「え、そういうのはないかな...」


異世界モノへの理想、及びオタク特有の早口が、イヴを引かせてしまった。ついついへの口になる。


「なんだよ、なら何くれるってんだよ」


イヴはしばらく頭を抱えて考えた後、ひらめいた。


「んー、永遠の命とか?」


「何で疑問形なんだよ」


眉をくいっと内側に寄せた俺の顔をみて、仕方がなく言った。


「試したことがないから保証は出来ないけど、君がこの世界の悪い想像力の根元を突き止められたら、君の言っていたチート能力?っていうのを一つ上げるわ」


「マジか!って、それできるなら最初にすべきだろ?」


眉がだんだん八の字に近づいてくる。イヴは慌てて弁明した。


「だってやったことないんだもん!しょうがないでしょ?それやって君が消滅でもしたらまた何百年も待ちぼうけじゃないの!そんなの待ってられないわ!」


「消滅するかもしれない事をご褒美にしてんじゃねーよ!」


俺とイヴが言い合いをしていると、ズズンと、体に謎の重力がかかり始めた。


「く、何をして...」


「私じゃないわ、多分想像体である君の体を、第二世界が引っ張ろうとしているのよ。本来ならここに来ることすらなかったから」


膝をついて、俺は重力に抗いながら言った。


「っく、わかった、どうせ死んだ命なんだ、消滅するかも知れないご褒美に、期待、するとする、よ」


「君が来てくれて私は本当に嬉しいの。だからできるだけ早く、君の願いを聞き入れてあげるために私も頑張るから。ちゃんと、ここで君を見守っているから」


彼女の表情は見てとれなかったが、イヴのその悲しげな声音を聞いて、俺の中で、彼女の願いを聞き入れてあげたいって思った。甘いよな。


「ああ、任せろ」


真っ暗闇の世界から、さらに真っ暗な穴に落とされた。

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