与えられた欠陥で、俺は神に復讐する~異世界なら俺の不幸有効活用できるようです~
こへへい
死して尚
しかし俺の「不幸」は終わらない。
高層ビルに押し潰されても尚、俺の災いは、俺の「不幸」は俺を苦しませ続けるのだ。
そんなこともいざ知らず、今、真っ暗闇の世界に一人寝そべっていた。床も黒、外壁(黒すぎて壁があるかも分からないが)も黒。黒。黒。黒。暗すぎて黒過ぎる。砂漠の様な真っ暗な世界にいるようだった。
起き上がると、自分の体だけがはっきりと見えた。いやそれだけじゃない。空には輝く太陽のような光が燃え盛るように輝いている。
一体ここは何処なんだろうか。周囲を見渡していると、自分じゃない人影が視界に捉えられた。
「うわぁぁっ!幽霊!?」
一人の少女の幽霊がいた。すらっと白い足は裸足で、白いワンピースを着ただけの、アルプスの少女を思わせる軽装だった。黒髪ロングはとてもよく映えている。
恐る恐る観察していると、幽霊はサツキの頬に手を伸ばしてきた。そしてペタペタと触る。
「な、なな何だよいきなり!」
触られる前に身を引くこともできた。だが何か良からぬことをされるのならば、自らの不幸を予見する俺の特技「嫌な予感」が反応しても良いのに、それはない。それに疑念を抱いた。
(取り敢えず悪い奴ではなさそうな気がする...多分)
少女は泣きそうになりながら、嬉しそうに呟いた。
「良かった、待っていたよ」
「...俺をか?」
「え?いや別に誰でも良かったんだけど、誰かが来てくれることをね」
涙を拭いながら発した言葉に、ムムッと気分を害する。お姫様っぽい小芝居を挟んで言い返した。
「誰でも良いとは失礼だな。建前でも『貴方が来ることを待っていたよ』とか言っても良いだろう」
「...はっ!そんな話は良いの!今大変なの!」
小芝居を全く無視し、少女は身振りを大きくして、慌ただしさをアピールした。
「大変なのか、奇遇だな、俺もさっき大変な事があってよ」
「貴方が死んだのは知っている。問題はそこじゃないの」
(俺の死を知っている?それにえらく自分本意だな、いや年相応なのかもな)
自分が17歳であることを棚にあげる。そして取りあえず少女の話に耳を傾けることにした。死んだんだからやることもないし。
「アダムが、闇に飲まれようとしている」
「アダム?って、最初の人類のあれか」
(アダムとイヴというのは聞いたことがある。人類の始祖と伝えられている空想上の人物。日本のような無宗教な国でも、単語くらいは耳にするだろう)
「そう、私たちは想像上の二人。最初の人類として、人類によって想像された存在。でもアダムはまだ未完成だから、自分の完成のために想像力を蓄えて完成に向かおうとしている」
言葉を紡ぎながら、イヴは天を見上げた。それにつられてサツキも天を仰ぐ。二人とも、この真っ暗な場所に来てからずっと太陽のごとく輝いている光に視線を送っていた。
「まさか、あれがそのアダムだってのか?」
コクと、イヴはうなずいた。
「そして私がイヴ。彼の完成のため、彼によって作られた存在なの。私は私の役目を完遂するために、今まで手を尽くしてきた。けれど、ここ数百年の間に、アダムに良くない想像力が送り込まれる様になった。君にはそれを食い止めてほしい」
イヴの真剣な眼差しを浴びる。何かしら良くないことが起こっているのは分かった。それでも解せない。
「突拍子もないからあんまりイメージはできないな。想像力っていうのって、送り込まれたりするものなのか?君のいう想像力って一体なんだ?」
「想像力は想像力だよ。と言っても分からないか」
と言葉を切ったあと、数秒挟んでから、驚くべきことを説明した。
「この『星』は、想像力によって具現化する『クリエイトエナジー』が溢れる世界なんだ。想像力無くしては見えもしない。だけど、一度想像力が働けば、炎も出せるし水も出せる。電気も発せられるし風も出せる。そして『私たち』も想像されて具現化されているの。ここはそういう世界」
「え」
「まるで魔法の世界じゃないか」と言いそうになったが、イヴの最後の言葉を聞いて飲み込んだ。魔法とかそういうことじゃない。今イヴは最後「私たちも想像して具現化された」と言ったのだ。
(つまりこのアダムとイヴは人間が想像したから今、俺の目の前にいるってのか?)
「これを見て」
真っ暗な世界に写し出されたのは、緑が生い茂り、大地が広がっている世界。ある一点にズームしていき、画面は町を写していた。人々が行き交い、商いに励む者や農作物を大きな畑で育てる者、家を建てる者等がいる。
(ここは、どこだ?まず日本ではこんな景色無さそうに見えるが、どこの国なんだ?)
「なぁ、ここはどこなんだ?」
イヴはサツキに向き直り、言った。
「ここは想像すれば何でも具現化する世界、『第二世界』。アダムに想像力を送り、アダムの完成のために私が作った、人類のもう一つの世界。ある条件を満たした人類が死ぬと、ここで目覚めて第二の人生を送ることになるの。そうしてここに来た人類から、想像力をアダムに供給しているのよ」
「第二の人生?それってまさか異世界転生的な?」
17歳の俺はその手の物語は大好物である。というのも、自分の人生が不幸なので、非現実を求めてしまうのは致し方ないと言える。なので密かにこの展開を予想、いや期待していたのだ。だがそんな期待は打ち砕かれる。
「異世界転生...って、何?」
キョトンとイヴは首を傾げた。意味がわからないという様子。だがもう一つの期待を抱いていた。
「なら異世界転移じゃないのか?ここで何かしら良い能力をもらって第二の人生を謳歌するんじゃないか?」
笑顔に焦りがにじむ。完全に顔がひきっつっているのがわかる。さっきからイヴは首を縦に振ってくれないからだ。イヴは眉を潜めながら言った。
「何を言っているのか知らないけれど、貴方もう死んでるのよ?さっき第二の人生とは言ったけれど飽くまで比喩的な言い方だから、厳密には第二の人生って訳じゃないの」
血の気が引いた。死んでいるからか?いや違う。
「...は?でも俺はここにいるじゃないか」
「ええ、貴方は死ぬ直前、今までの自分の人生を振り返り省みたはずよ。走馬灯として、自分の過去を『想像』したはず」
(想...像?それってまさか)
「そうして貴方の走馬灯を私が汲み取って、この世界で具現化させたの。それが今の貴方という存在なの」
イヴはサツキの期待を、いとも容易く打ち砕いた。
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