災い転じて
走る。
ダッタッダッタッダッタダッタッダッタッダッタ!
走る!走る!!走る!!!
走らなければならなかった。だって止まれば、死ぬからだ!
「くっそぉ!異世界早々ついてないなぁまったく!」
ごつごつした、補整もなにもされていない茶色い大地が、無差別なタイミングでグラグラと揺れている。そんな不安定な足場を全力で走らなければならなかった!
「いつも通り過ぎて反吐が出る!」
だって、この美しき闇夜の空から
真っ赤に燃える隕石が、無数に降り注いできているのだから!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
落ちる!燃える!熱い!でも止まれば死ぬ!走らなきゃ死ぬんだ!もう一度死ぬなんて嫌だ!だって体がえぐられるってめちゃ痛いんだから!
両腕をめいっぱい振り切って走った!
ズドドドドドン!
背後の振動が強くなってきている!落ちてくる隕石がだんだんと近づいているのだ!
それもただ走るのでは駄目だ。隕石の落ちる場所を「予測」し、それを避けながら走らなければならない!幸い隕石はそれほど大きくなく、どでかいクレーターを形成するには至っていないものの、周囲の大地を揺るがす程の衝撃を発しているということは、人体を貫くなんて容易いということだ。だからかすることすら致命傷なのだ!
(...やばい!右前方から隕石が来る!そういう「嫌な予感」がする!)
俺には生前、ある特技があった。自分の人生が不幸であるが故に、我が身に降りかかる不幸を予め検知する事ができる「嫌な予感」という特技だ。
ズドーン!
その特技のお陰で、間一髪でかわすことができた。落下地点を予測できなければ確実に皮膚をスクラッチされていた!それほどまでに近い!
だが当たらなかったことに安心している暇がない!振り返らず、ただ前だけを向いて走り続けた!
走る!走れ!
走ろ!走りゅ!
走れ!走...
瞬間、見える世界がスローになった気がした。死を前にして、瞬間的思考能力を身に付けた(ように感じているだけ)!
(...きた!この感じ、かなり大きい「嫌な予感」だ。左後方から強く感じる)
進行方向を右に傾ける!そして左耳を押さえて、走りながら飛び上がり体を丸める。そしてこの特注ブレザーで、全身を覆った。
ズッドォーーーーン!!!
今までより一際大きい隕石が左側に落ちた!目の前でロケットが飛び立ったかのような爆風と爆音が体に襲いかかる!
「あっつうぅぅぅぅぅ!!!」
だがそれを「予測」していた。だからこそ、ブレザーを身にまとったのだ。この制服は最大1000℃くらいまで断熱できる特別仕様なので、皮膚が焼かれることはない。
生前、自分の不幸から人生を守るために、ブレザーを改造していたのだ。学校指定の制服のデザインにすることが一番苦労した。
(つっても限界がある!普通に熱い!)
ブレザーに包まれた体が爆風によって運ばれる!俺の体重が65kgなのにだ!それほどの力が働いていた!
宙を飛ぶ体、このままでは地面に叩きつけられて大ケガを負ってしまうだろう。
ブレザーの隙間から地面が微かに見えた。
...高い。
生唾を飲んだ。10mはある。学校の最上階(4階)から見たグラウンドほどの高さ。さらに体は横にも力が働いている。砲丸投げの砲丸の気分を味わっていた。
だが砲丸のように、なす術なくただ地面に叩きつけられるのとは違う。
覆っていたブレザーの袖口を両足首にがっちり結ぶ。両手はブレザーの下部分を掴み、そして広げることで、風を受けられるようにする。
これで少しでも勢いを殺すしかない!モモンガの応用で!
制服がバラバラと風に煽られて音が鳴る。だが空気が漏れて十分に勢いを殺せない!だが致命傷程度なら避けられそうである。
諦めない!絶対に生きるんだ!
「...nド!」
遠くから聞こえた声。だが振り返る余裕はない!地面に激突するタイミングで、受け身を取ろうと体をグルンと回す。
ビュォーーー!
急に背中に向かって激しい風が吹き荒れた!それもとても不自然な風だった。到底現実では起こり得ないであろう風。何事かと、風の方に振り返るが、そこには地面しかない!慌てて受け身の体勢をとる!
落ちる!
ぼふぅぅぅ...。
その風が体を持ち上げ、フワッと浮いた。まるで母親に持ち上げられた時のような、そんな優しい風が、サツキを落下から助けたのだ。
ズシンと、地面に尻餅をつく。外傷はない。骨も無事だった。五体満足にいることが不思議だった。だがそれよりも、もっと不思議なことがつい先程起こっていた。
その原因は恐らく、あの声の主だろう。
聞こえる足音がだんだんと近づいてくる。チリチリと燃える地面の音の方に向いた。
そこにいたのは、可憐な女性だった。真っ黒なロングスカートは上の服と繋がっている。右手には箒、左手には杖を持っている。もっと見上げると、闇に輝く長い金髪が、真っ黒のとんがり帽子で被さっていた。
まさか、その格好で魔法使いと名乗ろうってんじゃないだろうな?
そんな疑問を余所に、この女性はぽかーんと口を開いた。
「すごいわねあんた、あの極小流星群に襲われて生きていられたなんて」
俺は急な感想に顔をしかめた。
「いいや、最後の風がなければ骨折は確定だっただろう、それにこんな辺境に地に骨折でいたんじゃこの先まともに生きていくことなんてできはしない。つまり寿命が延びただけで死んでいた。俺の力じゃないさ」
「あぁ、それは私が風魔法使ったからよ」
(風...魔法?)
片眉をくいっと上げた。魔法という言葉がいかにも日常の一部であるかの様に語られたので、息を飲んだ。
「ま、ちょ、魔法あんの?風魔法?確かに自然にはあり得なさそうな風ではあったけど...!」
(イヴの言っていた想像力...あれはこの世界では魔法として使われているのか)
一人で完結すると、
「そーよ?当たり前じゃない。見た目で分かるでしょ?って」
黒衣の女性はキョトンと首を横に倒して言った。そして目の前の綺麗な女性は髪を揺らしてこちらへ顔を近づけた。
「その格好から大体の察しはついていたけれど、あなたやっぱり転移者ね?そうなんでしょ?」
得意気に「転移者」という言葉を発した瞬間、頭に過ったのは、この世界に来る前に、イヴという少女から聞いた話だった。
第二世界では、死んでここに来た人間を転移者って呼んでいるのか。それも当然か、イヴのところに来た人間は極々僅からしいから、真実を知る人間はほぼ0か。
だがその真実をこの女性に話したとて信じて貰えない。だから自分を転移者だということにした。
「ああ、そうそう、急にここに転移させられてさ」
「やっぱりそうなのね!しかも来て間もないってのはラッキーね、まだ誰にも見つかっていない訳だし」
にかっ!と可愛らしく笑顔で指を鳴らす魔女。
「見つかっていない?とは?」
彼女の言動に疑問符が浮かんだ。ゾワゾワと嫌な感じがした。
「最近ここいらでは転移者の記憶喪失が相次いでいるのよ。だから元の記憶がある状態で転移した君を真っ先に見つけられた。本当にラッキーね」
そんな事が起こっている場所に転移した時点でアンラッキーだよ!
自分を落下から風魔法で守ってくれたこともあり、浮かんだ突っ込みをギリギリのところで飲み込んだ。
記憶喪失!?ヤバイだろそれは!異世界転生とか異世界転移では、前世の記憶を利用できるアドバンテージがあるからこそ、「俺強ぇー!」ができるのに。それが取られるのはマジで不味い!
思案していると、急に腕を捕まれた。
「え?」
「取りあえず来て!安全な場所に案内してあげる」
「えちょおおおおおお!!!」
腕をガシッと捕まれ、急に大空に飛び上がった!
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