ワイバーン
「千切れる千切れる千切れるってぇ!」
黒衣の魔女に腕を捕まれて空高く飛び上がった。命綱は腕一本である。箒の上昇する力と俺の体を体重分引っ張る重力の力が、その一本の腕に襲いかかった!
その痛みに耐えながら、魔女が箒に飛び乗るのを見て、それを真似て飛び乗ることができた。だから魔女と同じく、箒の左側に両足を出した体勢で座っている。
「っぶないな!また死ぬかと思ったわ!」
「あっはは、ごめんごめん、私いつもこういう乗り方してたから癖でね」
魔女は片手で頭をかいて謝った。
「あー!ちゃんと箒掴んで!悪いって思ってるのはわかったから!」
「そう?ありがと」
えへへと、金髪を翻してその笑顔を輝かせた。
膝の上に腕を置いて視線を落としながら、ついていって大丈夫なのか?と心配になる。
「あれを見て、あそこが私の住んでいる国、ディネクスよ」
落としていた視線をゆっくりと上げた。
あ、これは、良いな。
視界に広がるのは、広大な大地。薄茶色の岩肌には、シミのように緑の部分がちらほらと見えた。その中心には彼女の言っていた国「ディネクス」。城壁が円を描くように町を守っている感じだった。地平線からは太陽の光が顔を出し、ポツポツと見える雲を橙色に染めている。
感動に耽っているところで、風を切る音がした。
ぶぅぅぅんっ!!!
「何の音だ!?どこから?戦闘機?」
「その戦闘機ってのは、あんたの元の世界でワイバーンの名前なのかしら?暢気なことしている暇は無さそうね、逃げるわよ!」
魔女は皮肉混じりに言った。そして箒に足を跨がらせる。ワイバーンという何かが来たからだ。俺も魔女に倣って箒に跨がる。
「ワイ...バーン?」
強く箒を握りしめ、振り返った。とても遠いところに、朝焼けによってさらにその身を赤く燃え上がらせた、プテラノドンの様な生物が羽ばたいていた。
「ぴぎゃぁおおおぉぉぉ!」
二人とも耳を押さえることが出来ないので、奥歯を噛んで必死にその咆哮を耐える。
そして魔女は大声で言った。
「そういえば!あんた名前は!」
「俺は山田サツキだ!」
「そう、私はカレンよ!サツキ!絶対常識の範囲内でならどこ捕まってもいいから!絶対振り落とされるんじゃないわよ!」
カレンのお腹をつかんだ。瞬間、箒の速度が増した!
ギューーーーーーーーーーーンッ!
「っんぐ!」
カレンのお腹に腕を回して耐える。その時、腕に柔らかい感触と爆風が襲った!
(複雑な気持ちだ...ずっとこうしていたいけと風がきつくて離したい、けど離したくないぃぃいい...)
箒の軌道が弧を描く。見上げると、さっきまで走っていた大地とワイバーンの背が見えた。ワイバーンは体当たりしてきたのだ。
ギロっ!とワイバーンが顔を上げて俺の目を睨んだ。獲物を絶対に逃がさないという意思が突き刺さるのが分かった。
(こっわ!ワイバーンこっわ!なんでこんな好戦的な種族が滅んでるんだよ!こりゃ恐竜の隕石で絶滅説本当なのかもな)
ワイバーンは急上昇して俺達の方へ体当たりを仕掛ける!
「よいっしょぉ!」
それをカレンは箒を横に回転させながらその体当たりを華麗にかわした。カレンの金色の髪がグルグルと渦が作られるのを見ながら、その技に感心した。
(すげぇ、箒をここまで使いこなしているなんて、掛け声がなければ惚れそうだ)
ギャアアオオオオォォォォォォォ!!!!
ワイバーンの咆哮が響く。その場で羽ばたきながら止まった。その機を見計らい、カレンはギュンッ!と急速前進する。その間追ってくることはなかった。諦めたのだろうか?
「まずいわね」
「は?いや完全に撒けそうだろ、あいつその場で止まったし、もう追ってこないんじゃないか?体力の無駄...」
(待て、奴は絶滅した欠陥的種族だ。だからこの第二世界にいる。なら体力の無駄を考えて撤退するだろうか?それほど賢い選択ができるのだろうか?)
思案する俺にカレンはせわしなく説明する。
「ワイバーンってのが本気を出すときは、その魔力を体から放出させる準備をするの。あれが特級危険生物の本領よ!燃やされたくなかったら体縮めて!」
「燃やす?」
カレンの言葉を聞きながら、ワイバーンの方へ振り向いた。
「口に、炎を!?」
ワイバーンは口から炎を垂れ流しながら、また戦闘機並みの早さで前進していた!
そして口を開き、放った!
ボフウッ!!
「伏せて!」
俺はカレンの背中に顔をくっつける。カレンは掛け声と共に箒の軌道を左下にやる。熱い空気が横切った感覚が右肩に感じられた。
(人間以外にも想像力を行使できるのか、それがあの炎だっていうのか...!)
ワイバーンはまた炎を溜めながらまっすぐ向かってきた!そして放つ!
それをカレンは大きく動いて避ける!炎はその周囲の空気を熱くしながら放たれるため、大振りに避けないといけないのだ。彼女はそれを良く理解していた。
ワイバーンの猛攻をかわしていくカレン。だがこのまま逃げてもらちが開かない。
俺はカレンに大声で聞いた。
「どーするよこれ!逃げ続けて先はあるのか!」
「ディネクスに行けば何とかしてくれるかもだけど、急に来て非戦闘な国民に被害が行ったらヤバイでしょ!」
「ならどーするんだよ!」
「隙を見て攻撃する!流石にワイバーンでも痛い目見れば逃げるでしょ!」
(だが隙っていっても...)
カレンの箒の急な軌道変更にも対応できる反射神経がある、このワイバーンの隙を見つける。到底できる気がしなかった。
(...くっ、嫌な予感が...ん?)
だが、頭にに降りた嫌な予感は、ある閃きを生んだ!
(これは...使えるかもしれないぞ?)
ワイバーンの方へ振り向いた。またもや口に炎を滾らせて今にも放とうとしている!
「しつこいわねっ」
それを察知し、カレンは箒の舵を右に切った。だが、
「逆だ!左にかわすんだ!」
「はぁ!?んなのどっちだって」
「いいから早く!時間がない!」
俺の焦りが伝わったのか、カレンは大人しく従った。
ぼぅぅぅっ!!
炎が放たれた!カレンは右にかわす。そのとき!
ビュオオオオオオオ!!!!!
突風が左方向から吹いてきた!これによってカレンの箒とは逆方向に力が働き、動けない!
「動けないじゃないのーーー!」
死を悟り、叫ぶカレン。
「いや、これで良い」
ワイバーンから放たれた炎は、突風によって左に軌道を変えた。もし左に箒が舵を切っていたら、曲がった炎によって二人まとめて燃やされていたことだろう。
加えてこの突風によって、ワイバーンが体制を崩した。これはさっき魔力を充填しようとして意図的に止まっていたのとは違う。ワイバーンも予期せぬ怯みだ。
「カレン!今がチャンスだ!」
「え!?...あ!オーケー!」
呆気に取られて一瞬カレンはワイバーンの様子を見ていなかったらしい。だが隙を見据えたカレンは、直ぐ様服の中に収納しておいた杖を取りだした!
「シューティングスター!」
杖から出た星形の何かが、幾つもワイバーンに突き刺さる!鋭い角はワイバーンの皮膚を貫き、血を流していた。ワイバーンが体を振り回し、突き刺さった星をふるい落す。とても痛そうにしていた。
(え、コミカルな星攻撃じゃないの?ただの手裏剣だよこんなの!痛そうだな)
ワイバーンはたまらずに退散。二人は見事ワイバーンを撃退することに成功した。
「サツキ、あんたやるわね」
カレンは振り返り、にかッとして素直な称賛を送った。
「副産物を上手く使っただけだよ、緊張したぁ」
命が救われたことに胸を撫で下ろす。称賛を素直に受けとる余裕がなかった。
(やはり第二の人生だとしても、不幸は健在か。しかもこの不幸は第一世界の非ではない大きさだ。油断しているとすぐに命を取られかねない)
そして一緒に付き合う感じになろうとしているこのカレンという女性も、俺と居ればまた不幸に巻き込まれるかもしれない。
そんな心配を抱えつつ、俺はカレンの箒に乗って、ディネクスに向かうのだった。
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