第4話 洗浄

 萎縮した陰茎を凝視される屈辱を飲み込みその人の前に座った。私の首から腋窩や胸といった汗の溜まりやすい箇所を丹念に磨いてから立ち上がれと要求された。その人の手は尻の穴や包皮の中はもちろん足の爪まで及んだ。洗顔は耳の裏まで丁寧に洗われた。箱から取り出した歯ブラシで親不知まで磨きデンタルフロスで私の不揃いな生えかたをした犬歯の歯垢を取り除く。


 すっかり綺麗にされると私が寒さで震える仔犬かのごとくその人は絹のバスタオルで私を包んだ。タオルごしの指は身体の孔に溜まった水を探っていた。


 用意された作務衣に身をつつみ犬の待つリビングに通された。犬は依然として私を快く思わないため吠え出した。「ママ」が犬の首や腹を撫でまわし落ち着かせるまで少々の時間を要した。渋々ながら私の存在を受け入れたらしく声を荒げなくなると「ママ」はテーブルの上にあった煙草に火をつけた。


「洗わないんですか、手は」

「ソーニャは汚くない」


 煙草を吸い終えるまで一言も話さなかった。煙を吐いて沈思する様は余人の介入を許さない厳つさがあった。煙草の火を消して禿頭を掻きむしる。

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