第3話 シンナーとボディーソープ

 降車するとそこはガレージであった。シンナーの臭いが充満していた。

 その人は深呼吸していた。

 見渡すとペンキ缶や灯油タンクやらがいくつも置かれていた。

 勝手口に通されると、その人のもとに駆け寄ってきた犬は、不審な私を見上げて吠えた。ボーダーコリーらしく頭部全体は焦げたような黒顔だが中央だけは純白である。潤んだ瞳は飼い主の許可さえ下りればいつでも噛みつきにきそうな剣幕と「ママ」からの愛を待っている恭順が同居している。


「ほら静かにね」と額を撫でられると、納得しかねるが命令なので仕方ないと言わんばかりに私を睨み付ける。

「お風呂が焚けてるから汗を流してきなさい」

 懐にあった包丁は通路の奥を指し示している。


 浴室は未使用であるかのごとく清潔だ。タイルの継ぎ目はクリームのような白さを保っている。入浴していると服をきた「ママ」が洗面器に湯をはってタオルを浸してからそれでボディソープを泡立てた。


「いらっしゃい、洗ってあげる」

 その人はどこにナイフを隠しているかわからないうえに無防備でも何を企むか検討がつかないため打撃なども警戒した。また拒否したところで何が得られるわけでもない。むしろ無用な警戒を抱かれて監視が強くなれば脱出の機会を消失しかねない。

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