第3話 シンナーとボディーソープ
降車するとそこはガレージであった。シンナーの臭いが充満していた。
その人は深呼吸していた。
見渡すとペンキ缶や灯油タンクやらがいくつも置かれていた。
勝手口に通されると、その人のもとに駆け寄ってきた犬は、不審な私を見上げて吠えた。ボーダーコリーらしく頭部全体は焦げたような黒顔だが中央だけは純白である。潤んだ瞳は飼い主の許可さえ下りればいつでも噛みつきにきそうな剣幕と「ママ」からの愛を待っている恭順が同居している。
「ほら静かにね」と額を撫でられると、納得しかねるが命令なので仕方ないと言わんばかりに私を睨み付ける。
「お風呂が焚けてるから汗を流してきなさい」
懐にあった包丁は通路の奥を指し示している。
浴室は未使用であるかのごとく清潔だ。タイルの継ぎ目はクリームのような白さを保っている。入浴していると服をきた「ママ」が洗面器に湯をはってタオルを浸してからそれでボディソープを泡立てた。
「いらっしゃい、洗ってあげる」
その人はどこにナイフを隠しているかわからないうえに無防備でも何を企むか検討がつかないため打撃なども警戒した。また拒否したところで何が得られるわけでもない。むしろ無用な警戒を抱かれて監視が強くなれば脱出の機会を消失しかねない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます