第2話 「ママ」
車内は背筋が砕け散りそうなほど寒かった。
「ママが合図するまで、寝ていてちょうだい」
巾着袋みたいなもので私の頭を覆った。首をギチギチと締め付けられる感覚は巨大な環形動物に血を吸われているようだ。
発進の際にわずかに振動を感じミッション車であることはわかった。だが肝心の私たちがどこへ向かっているのかということは分からない。上手とは言えない運転であるため予期せぬ揺れが三半規管を刺激した。巾着の中が蒸れていくのと反対に車内はみるみる寒さが増していった。
激しい雨の音がしはじめたのは先ほど見かけた鉛色の空があった方に走って行ってるからだろうか。ほとんど停車することなく進んでいるのは高速道路にでも入ったのだろうか。
巾着の中で、ママと名乗る人物の相貌を克明に思い浮かべつつ「帰してください」と懇願した。その者は何も答えなかった。
「お金なんて持ってません」
「子供から無心するほど落ちぶれてないわ」わざとらしいほどの女口調だったが、その声色は男とも女とも判断できない。性的な特徴を削ぎ落とすために魂すら捨て去った声である。
「貴方は、私の親じゃない」
「あなたの都合を押し付けないでほしいな。私はあなたのママ。わかる?」
「ふざけないでくれ」
「ふざけてるのはあなたよね?」
巾着ごしでもわかるような閃光とそしてすぐに爆音のような雷鳴が響いた。
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