第44話 ここまでだから
二人分…?
ココロが何を言っているのかわからない。それって僕が今まで練習していたことと何が違うんだろう。
「それって、どういう意味?」
「これからは、ヒューチャーコアをミライくんが作っていくってこと。私の歌声を忘れないでミライくんが歌ってくれれば、私にならなくてもそれでいい。」
いつになく真剣な目で話される内容。元々提案したのはココロで、そもそも病人にこれ以上歌ってくれ、と頼むわけにもいかない。だから反論することは僕にできない。
もちろん、僕はヒューチャーコアのことが好きだし思い入れもある。簡単にやめるなんてこともしたくない。聞いてくれる人の反応は気になるけど、ココロに相談しながら続けていけばいい。
楽観的に分析する僕に、さらに言葉が投げかけられる。
「それでね、ミライくん。もう私には会いに来ないで」
自分の心臓の音が聞こえた。
なんでか僕は冷静だった。
驚けなかった。
こんなに多くの時間を共有していれば、ココロがある程度何を考えているかわかるようになってくる。
これもなんとなく、なんとなくだけど予想がついていた。
体感にして二秒もたたずに行動を決めた。
静かにココロに微笑みかけて頷き、僕は扉の方向に向く。
思いを断ち切るように一歩前に。また一歩。
いろんなことを思い出す。なんか走馬灯みたいだと、心が自分を嘲笑っている。
泣きそうになって、なぜかココロの笑顔が頭に浮かぶ。僕をからかって小悪魔みたいに笑う学年のマドンナの顔。
いつだって、今日こそはココロの考えていることを当ててやる。
そう、頭の中で豪語して。でも毎回のように予想の一歩先をいかれて笑われる。
それで今日やっと…
あれ、僕は今日。本当にココロのことをわかってあげられたのか。
あの小悪魔を、一度も勝てなかった相手を。しっかり理解できたのか?
必要以上に引き伸ばされた時間から戻されて、ドア目の前で勝手に足が止まる。
やっと止まった涙が、今さっき堪えた涙が目に溜まって。揺れる視界で振り返る。
視界の先ではココロが僕と目を合わせていて。
「今日は私の負けだよ、ミライくん。やっと気づいてくれた。」
今までにみたことないような穏やかな笑顔で、涙を浮かべながらココロは僕に言葉をくれた。
すぐに僕の口から気持ちが、嗚咽みたいに情けなく。
「僕、ココロのこと好きだったんだ。やっとココロのこと、理解できた。」
途切れ途切れの僕の言葉に、ココロはすぐさま返してくれる。
「わかってないよ、ミライくん。そんなこと言わないでほしかった。」
言葉では僕のことを拒絶しているのに。顔や口調は全く厳しいものじゃない。
「そんなこと言われたら、死にたくないって。そう考えちゃうじゃん」
「死なないでよ」
「無理だよ。
でも、一回だけ… 一週間後に一回だけ会いにきて。」
「うん…」
「歌を聞かせて。ミライくんの歌をさ。」
こんな会話をお互い天気雨みたいな表情で話しながら、僕は完全にココロの方に振り向いて。目線の先のココロも無言で微笑んでくれて。
気づけば僕はココロの目の前まで戻ってきた。お互い目を合わせて無言になる。
僕はベッドに座っている状態のココロと同じ目線になって。
そして、そっと目を閉じた。
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