第43話 僕の目指した歌声は
「ミライくん、久しぶりだね」
静かに涙を流す僕に、もう綺麗な歌声など見る影もないココロの声がかけられる。この病気が現れる年齢は人それぞれ、だから今のココロの声もこうなっている。今僕の目に映るココロは、いつかみたケイコさんにすごく似ていた。
それは親子だからとかそういうことではなくて、何か纏っている雰囲気のようなものが似ている。
それと同時に、僕はあの時と同じ感情を抱いた。ココロが、彼女が綺麗だと。
「ココロもね。」
彼女をみて流れた涙は、彼女の声を聞いて止まる。
僕とココロの様子を見たからか、ユリさんは静かに病室を出て行った。
少しだけ間があいて、僕から話を始めた。
「ヒューチャーコアのことだけどさ、ココロはどうしたい?」
僕の問いに、ココロは何を言っているの?とでもいうような顔で首を傾げる。
少し困惑をしながらも、僕は続ける。
「僕はココロに言わなきゃいけないことがあって」
ここまで言って、ココロに予想外にも遮られる。
「ミライくん。謝ろうとしているのならやめてね?」
完全に釘を刺された。なんでココロは僕の考えることを次々と言い当てることができるのだろう。
困惑。困惑という言葉しか出てこない。
「その顔、図星って感じだね。」
まだ部活にいた時のココロからは比べ物にならないほど落ち着いた様子。そして、昔の面影を思わせる小悪魔的な笑い。
あの時あんなに焦っていたように見えたココロの姿は今見ることができない。嬉しいことだけど、生きることを諦めたみたいに見えてしまって僕の困惑をさらに深めていく。
「なにをそんなに考えているの?」
「なんか、ココロがすごく変わった気がしていたのに。今は昔に戻った気がしていたから。」
何も話さないで自己完結で悩んでいるのもどうかと思った僕は言葉にならないうようなふわふわとした気持ちをなんとか伝えてみた。
「ミライくん。私は基本私だよ?」
ココロは咳払いを挟んでから続ける
「いくら鈍感なミライくんでも、気づいてると思うけどずっと考えてたんだ。自分が生きたってことをどうやって残していこうかって。」
口調も変えずに、淡々と。ただ自己紹介をしているみたいに話が続く
「最初は神道未来っていう人間に私という人間を知ってもらおうと思ってた。だけど、続けていくうちに欲が出てミライくんと二人で音楽をやっている歌を歌う女の子になった。でも、それでも満足できなくなって、うまくいかない自分が嫌になっていった。」
乾いた笑とともに、私って勝手だよね。と言葉をつなげる。
「でも、どうしようも無くなって。病気が進行して自分の置かれた状況に何にも対抗できないんだってわかってから、気づいたんだ。」
この話を始めてから完全に沈んでしまっていたココロの顔は、ここで微笑みに変わった。
「ミライくんに歌って貰えばいいんだって。」
息が詰まる。だめだ。やめてくれ。そう何度も心で叫び、慌てて言葉にする
「ココロ、」
「最後まで聞いて。」
掠れた言葉でも、元気なココロの面影が残る傲慢な声に遮られる
「別に、私の代わりになってくれって言ってるわけじゃなくてね。
今まで二人で作ってた歌を、ミライくんが二人分やってくれればいいって。」
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