第42話 君の奏でるこのメロディと。

その覚悟のもと、ただひたすらに歌を歌う。

二人でとっていた動画はもう休業だ。

新しい動画を上げなくなってからも、再生数の伸びは止まることを知らなかった。それと同時にコメントも。

だが内容は少しづつ変化している。初めは次の曲はどんなのですか?など、新しい曲を待ち侘びるようなコメントばかりだったが、最近では僕ら二人を心配するコメントしか来ないようになった。

軽音部の活動も、今は僕の歌が虚しく響き、終わるとココロのアドバイスが優しく響く。そして最後に一回だけ二人で演奏をするという、少し前の様子からは到底想像もできないような内容になった。

日がすぎるごとに僕は焦り、ただひたすらに歌う。

歌って、歌って、叫んで。ただ、ココロの歌を歌いたくて。そう思いながらかけた歌声を吐き出す。ココロの歌声を少し聞いて真似をして、そして歌う。

そんなことできるわけもなく、自分に絶望する。

二人で演奏して、ココロの才能に感化され。そして劣等感を抱えて帰宅する。

ココロ自身は、もう軽口叩く気力すらも消え失せてしまったのか。たまに見かける聖女のように優しい女子。そんな感じになってしまい、それが余計に僕の調子を狂わせ、焦らせる。

そして、成果が出ないままココロの歌声が歌声ではなくなった。

学校を休むペースが急速に早くなっていき、すぐに来なくなってしまった。

ココロが学校に来ない日は自主練習。ココロとともに撮った動画を見ながらひたすらに歌う。

そんな時を過ごしていた僕のもとを、ユリさんが訪れた。

「ミライくん。ココロなんだが、明日から入院させることにした」

ユリさんが来た時に、内容はなんとなく予想がついた。わかっていても、目を見てこの言葉を聞けなかった。

だって、タイムアップ。そう、ゲームオーバーだったから。

覚悟も、努力も虚しく上手くいかなかったから。

ココロの歌声とまではいかなくても、僕が歌えば彼女のことを、動画を見た人が思い出せる。そうなりたかったのに。できなかった。

だからせめて、せめて彼女に謝りたかった。

「明後日、ココロに合わせてください」

背を向けたままユリさんに言葉を返す。ユリさんは、わかったよ。とだけ返して、部室ではなくなってしまった廃教室から出て行った。

言葉にできないようなやるせない気持ちが込み上げてくるのに、なぜか涙は出ない。練習時間はあと一時間。そうだというのに…涙同様、僕の声はうまく出てはくれなかった。


病院を訪れた僕は受付でココロの名前と、僕の名前、そしてユリさんの名前を出して病室を教えてもらう。

病室は4階。だけど階段を使った。

病室にたどり着くと、病室番号とココロの名前。どうやら一人部屋らしい。

扉に手をかけ人思いに明ける。

ココロと目が合う。その瞬間、なぜか涙が止まらなくなった。

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