第41話 僕の奏るこのメロディは。

動画は順調。再生数は伸びて、登録者も増えて。

アマチュアな音楽の界隈では一躍時の人。そう言っても過言でもないような感じになった。

そして、有名になったせいで周りの人に自分たちがヒューチャーコアだとバレた。今考えればこんなにも有名になったのだから、バレていなかったのが不思議で笑えた。原因を考えると全く誇れることはなく、僕もココロも友達付き合いが悪いから。そう思うと尚更笑える。

けど、動画の評価に反比例してココロの表情はつらそうになってきた。練習量も最盛期の半分になってしまったし。さびの後で咳き込んでしまってやりなおし、なんて流れも多くなってきた。

部活の時間も短くなって、そろそろ考えなければいけないかもしれないと、薄々考え始めている自分がいる。けれど、その自分を横目にみて逃避する自分もいる。


色々思うことはあるけれど、それを直接ココロに尋ねる勇気なんて僕にはなくて。


最近、一人になると考えてしまうのだ。ココロがいなくなった時。僕はどうしているのだろう、何を感じるのだろう。そして、今のココロの歌声を、生きた証とどう向き合うのだろう。彼女に対して思うこの気持ちをどう消化するのだろう。

人魚姫になりながら、命をかけて頑張るココロを隣で見ていてわかったことがある。あんなに突拍子もなく言ったと。そう僕は思っていた動画投稿だって。彼女が、彼女なりに必死に考え、導き出した彼女自身の存在証明なんだろう。

あんなに親しみやすい性格で友達が少ないのも、孤高のマドンナを気取ってわざとしていたことかもしれない。友達ができることが少なくなるように、得たものを無くすのが怖いのから。いろんな彼女の行動と顔を見て、そう思った。ココロはそういう人間だと。少しだけ、ほんの少しだけ理解できた気がする。


うだうだと考えに耽って逃避を繰り返す僕を無視して、ココロはどんどんとつらそうになっていく。口調や態度すらも、まるで何かに追われているかように、余裕がないかのような雰囲気を纏い始めて。

ココロがココロでいられるように。そう思っていたのに、どうしても僕は思ってしまう。もう無理をしてほしくないと。これ以上ココロが崩れないように。

それなのに

「少し休んでいいんじゃない?もう少しでもう一本取れそうだし」

「うーん、もう少し練習しときたい」

こんな調子で、全く聞いてくれなくて。ぶつかることも多くなって。

“一体僕はどうすればいいのか“

彼女が彼女のままでいられるように。その考え方は間違ってるのか。ココロが何をしたくて、何のためにあんなに無理をしているのか。

歌が好きだから、そんな当たり前の理由じゃなくて、何か他に…

今まで彼女を、僕は。彼女に対して何の勘違いをしているのだろうか。

当たり前の理由。

その言葉でハッとなる

別にそんな難しいことなんてないのかもしれない。もし僕がココロだったら何を思う?

そして、どうしたい?

もう自分が死んでしまうとしたら、大切な日常を手放さなくてはいけないとしたら。

もう…消えてしまうとしたら。

そんなの決まってる。自然なことだ。ココロは特別なんかじゃなくて、一人の人間だから。

考え方を変えてみよう。そして理解しよう。

だから僕は、改めて一つの覚悟を決めて。ココロが何をしたいのか、僕に何ができるのか。

それだけを考え、一つの結論を導き出す。そして

いつも通り、ココロに休憩を持ちかけられて断られる。このタイミングで僕はこういった。

「ココロの歌声を僕にちょうだい?」

これが、何度も覚悟を決めて。

それを変えて、その末に出した答えだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る