第37話 次の一手を3
家の前の通りまで帰ってきた時、ふと思いついてスマホを取り出す。俗にいう歩きスマホをしながら動画サイトのアイコンをタップ、そして自分たちのチャンネルのページを開く。すると、さっきできた動画がちょうどアップされたところだった。アップ8分前、再生数92回。アップしてから10分もたっていないのに、もう百回も再生されている。試しにサムネイルをタップしてみると、僕とココロの演奏が聞こえてくる。自分なのに自分じゃないような。不思議な感覚だ。
家に着く、ドアを開ける。そしてただいま。一万人もの人に知られて、多少有名になっても、何も変わることはない。不思議な感覚だ。
それにしても、なんでいきなりUSBメモリをご所望なんだろうか、うちのチャンネルの歌姫は。黒くて、少し安っぽく輝くプラスチックの長方形を掲げながら少し考えてみる。けど僕にはわからない。あの頭で、心で、何を考えて感じているんだろう。湯船に使って考える。今回のこれも、何か考えがあってのことだろう。
うーん。けどやっぱりわかんない、しょうがない僕は心理学者でもなんでもないんだから。
もう寝よう。
ココロの答えを聞いた僕は失笑した。あんなに色々考えてしまったというのに、なんだよ。無くしてないかのチェックだよって。いつもみたいな小悪魔みたいな笑みと共に言われていたら、もっと吹っ切れたのに。なんか引っかかるよーな。なんでだろ…あれ、なんで確認するためだけなのに今USBメモリをココロが持っているんだ?隣で作曲ノートを見ながらペンをまわしてるココロは何をしたいんだ?
「んー?そんなに見つめてどうしたの?惚れちゃった?」
回していたペンを華麗にキャッチしたココロの顔は、いつも通りの笑みに戻っている。
あーだめだ、本当にココロがわからない。いつものことだけど、わかんない。
「ココロって不思議だね」
心の声が漏れてしまった。
「わかんないけど、そうなのかな」
何かからかってくるのかと思ったけど、みょうに神妙な顔で言われて。僕の脳裏に一つの言葉がよぎって、そのまま口から出てくる。
「なんか隠してる?」
ココロは、少し驚いたような、笑ったような、悲しいような。訳のわからない顔をして無表情を経由しながらの微笑みを浮かべた。
やっぱりココロは不思議だよ。
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