第34話 まだ頑張れる2
扉を押して、中に入る。
そこには、見慣れた一人の女の子の後ろ姿。
夕日が差し込んでいて顔ははっきりと見えないが、透き通るような鼻歌とシルエットは地上に降りたばかりの天使のように見えた。
デジャブ…
何度目でも、見とれてしまう。突然に鼻歌が止まり、それにつられて我に返る。よく見えなかった顔が夕日を隠し逆光を遮る、そしてその顔が認識できるようになった。彼女は、ココロはゆっくりと口を動かす。
「ミライくん。ここに私がくるの待っててくれてありがとう」
ココロの言葉に僕は困惑する、何かの比喩か?照れ隠しか?
「え、待ってたのはココロじゃない?」
僕の咄嗟の反応に怒ったように頬を膨らませて、身をくるっと半回転。こんなに一緒にいても時々ココロがわからない。そう思ってはてなに埋め尽くされる僕に
「そうゆうことじゃないんだよなあ」
そういいながら半分こちらに向いたココロの横顔が、僕の目にはとても綺麗に写った。何度見ても。
そう、何度見ても綺麗だと思える。可愛いじゃなくて、綺麗なのだ。この人は。僕が彼女を好きだからか、それともココロが整った顔をしている人だからか…
自分の馬鹿げた思考のせいで少し笑ってしまう。一連の僕の様子を不思議がるココロ。よほど挙動不審に見えたのだろう、眉間に皺を寄せている。なんでもないと返す僕。ちょっと流れるどこか懐かしい無言の時間。変に壊してしまわぬように、そっと沈黙を切る。
「ねえココロ。」
少しピクッと顔をあげ、体を綺麗に捻ってこちらに向き直ってくれるココロに
「これからも一緒に演奏できるよね?」
どこか、僕の心から自然に出たような問い。
そんな問いに右手の人差し指と親指を合わせて口の右側に当てて考えるような素振りを見せるココロ。え、そんなにおかしなことを言っただろうか。
いや、ココロに限ってそんなことは…
うん。違った
「じゃあ、動画投稿でもする?」
キョトンとした顔で、ココロはこう言い放った。
なんか、僕ららしい。いかにも真面目な提案だと言わんばかりのこの顔も、ココロらしい。こんなぶっ飛んだ提案だって。それを受け入れようとしてしまう僕だって。
「じゃー練習しようか?」
そう、もう慣れた。だから当たり前のことだと言うように返す。けど、なんかいい雰囲気だと思ったんだけどな、でもこれでいいんだな。
自分に言い聞かせるように考えて。僕は背負ったギターを下ろす。
ちょっと変わってしまっても、僕らの関係は基本何も変わらないらしい。
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