第31話 奏で4

目をつむって、深呼吸をして、目を開ける。そして扉に手を置いて、静かにノックする。乾いた木と手はぶつかる音が響いて、消える。しばらく動きを止めて待っていると、扉の向こうからゴンという音が返ってきた。状況からしてココロしかいない。音の近さから、扉を挟んですぐそばにいるように感じた。そしてなんとなく、扉に背を預ける形でそこにいるんじゃないかと思った。僕がもしココロと同じ状態になったら、どんな相手でも話したくないはずだ。それでも僕は、ココロがいまできる範囲で、精一杯反応してくれたのだと信じて話しかけてみる。

「ココロ、そこにいる?」

案の定返事はない。けどそこにいるならば、この言葉を聴いてくれるはずだ。この扉の向こうには、絶対ココロがいるから。だからもう少し話しかけてみる。ならべく明るいトーンで、自分の伝えたいことが伝わるように。

「僕もサインG歌えるように練習したんだよね。もちろんココロほどうまく歌えるわけじゃないけど、それなりには聞けるものになったと思うんだよね。」

もちろん、対話だけでうまくいくなど思っていない。僕は考えてきた方法を実行するために、持ってきたギターをケースから取り出してベルトを肩にかける。数回軽く弦をたたいて、ドアに背をつけて座り込む。準備を進めながらさらに話題を広げる。

「文化祭での演奏、ほんとにすごかったと思う。くだらないって思ってた文化祭が少し楽しく感じれたし。」

歌いだしまでの伴奏を軽く弾きながら、最後に気持ちを込めた言葉を言う。

「どこかおかしいところがあったら教えてほしいな」

僕の言葉でココロの気持ちは動かないと思う、けど音楽の力を借りれば何とかなるかもしれない。だからその気持ちを伝えるためだけに歌う。

目をつむって、また開けて。深呼吸をして、歌いだした。


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