第30話 奏で3

その疑問の結果はすぐに出た。

黒い色、雨、単調とした雰囲気。

黒い服装の集団。僕の知っている人は、ココロとユリさん。それに、写真の中で笑うケイコさんだ。葬式などそうそう行くような場所ではないが、何度参加しても慣れないものだ。

淡々とすすむ葬儀の中で、僕もココロもユリさんも一度も言葉を交わさなかった。いや、交わせなかったというほうが正しいか。それだけ今回の出来事は僕らにとって大きな衝撃を与えた出来事だったのだ。特にココロ自身にとって。僕にとっても言葉が出ないほどの出来事だ、ココロ自身がどんなことを感じてどんなことを考えているかなど想像もつかない。

結局、ココロと話す機会は訪れなかった。ココロは泣くこともなく。ただ、ただずっとどこかを見ているようだった。

焼香を上げて、花を手向けて。ここからはココロやユリさんなど、親類の仕事だ。僕の出る幕は無い。この場を去ろうとする僕に、ユリさんが話しかけてきた。

「ミライ君。しばらくしたらココロの様子を見に来てほしいんだ。おそらく、しばらくココロは立ち直れないと思うから。」

そう言って、僕に一枚の紙を渡してくれた。そこにはたぶんココロが住んでいるであろう場所の住所が書かれていた。

「ここからが僕のできることですよね。」

僕の放ったこの言葉は、半分自分に向けてはなった言葉だ。僕の人格や、言葉や、行動だけココロのキズを和らげることは、たぶん雲を飛び越えるよりも難しいことだろう。だから、僕は音楽の力を借りて少しでもココロの力になりたい。

これは僕の本心で、ユリさんやケイコさんとの約束を果たすのだと。軽音部の日常をこのまま守るのだという正義感が原動力になっている。いや、僕の原動力の半分はただ好きな人に笑っていてほいいという考えてみると少しきざな理由なのかもしれない。


予想通り次の日からの一週間、ココロは学校にきていない。どうやってココロと接するべきか、考えて。結局何も思いつくことができない。何をするべきか、どうするのがいいのか。それはわかっているがが、どう切り出せばいいのかわからない。そんなこんなで一週間、何もしていないのだ。あんなにカッコつけておいて、何もできていない自分が恥ずかしい。ほとんど誰もいなくなった教室で机に突っ伏して。顔をあげては時計を眺めてまた突っ伏す。数回やって頭をぶつけて、かばんから顔をのぞかせる’サインG’の楽譜を見て。なんだか目が覚める。あの体育館での演奏が脳内でリピートされる。こんなどうしようもない、ほとんど最初から答えが決まっていて向き合っていなかっただけの葛藤。その末にやっと踏ん切りがついた気がした。一度ココロと話すしかない。なんのためにユリさんは僕にこの紙を渡してくれたのか、一週間何もしなかった今もう一度考えてみると本当に馬鹿らしい。財布に入れられて少ししわしわになってる紙を開いて、書いてある住所をスマホに打ち込んで。速足で部室に向かう。途中でカギを借りてから行かないとドアが開かないことに気が付いて職員室に方向転換。鍵を借りて、部室を開けて、ギターを手に取って、またカギを閉めて、職員室へ。鍵を返して、歩き出すころにはもう早歩きは走りに姿を変えている。いま走ってもしょうがないのはわかってる。だけど走るべきだと何かが僕に呼びかける。

書かれた住所の場所、壁が白い二階建ての一軒家。表札を確認してからインターホンに手をのばす。乾いた電子音ののち、ドアが開いてユリさんが出てきた。その顔は、どこか何かを諦めてしまったような笑顔だった気がする。すぐにいつもの少し無表情そうな微笑みに戻って

「ココロが部屋から出てきてくれないんだ、予想はしていたけど。一週間ずっとこの調子で」

そう教えてくれた。僕はうなずき、ユリさんの案内にしたがって家に入れてもらう。かばんを置かせてもらいギターだけをもって、二回にあるというココロの部屋へ足を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る