第27話 本番4
心に蔓延っていた緊張も。心に秘めていた自信も。演奏が始まってしまえば全くもって関係なくなっていた。
ココロのバンド紹介と同時に僕がギターをかき鳴らす。
その瞬間に世界がかわる。
僕の奏でる音で君が歌って。その音に乗って僕が奏でる。
伸ばしの部分も、強調部分も、練習で気にしたことなど気にならない。
ただ音を奏でる。
見に来てくれた人達も、だんだんとリズムに乗ってきて。
1番のサビで爆発。
拍手。歓声。
熱狂、熱狂、熱狂。
前まで僕にしまわれた音が全て出てきて
舞台袖で戸惑っていた自信と確信が躍り出て
ココロの声が日にきわたる。サビが終わっても終わらない、当たり前のように続く熱狂。もともとノリのいい曲であるサインGは、僕がギターを叩く音と綺麗でいて、そのうえで叫ぶココロの声によって想像もしないくらいに膨れ上がる。
音がぶつかって、音楽になる。
音が重なって、奏でられる。
荒れ狂うなみ、その中にある綺麗さ。
嵐のような暴風、その切れ間に見える太陽。
綺麗な天使が歌うような。賛美歌のような叫び歌。
サインGという曲が、歌詞が、ココロの声が、僕のギターが。
全てが会場を埋め尽くす。
失敗?しらない
成功?しらない
ただ奏でる、それが何よりも楽しいのだ。
2番のサビが終わり、ラストに入ると。熱狂はだんだんと覚めてきて、それから感情の風が吹き荒れる。
喜びである悲しみ。絶望の裏の希望。
歌の意味が最大限に伝わる。広がる。聞こえる。
最後の壱音が鳴り響いた時。見に来てくれた人は、もう立派な僕らのファンだった。そんな自己満足と身勝手を錯覚してしまうほどに。
ただ楽しく、上手くいった。
これが僕らの奏でる。君と奏でるメロディなのだと。胸を張って自慢出来るものだった。
終わって振り向いたココロとビシッと目があう。その目は笑っていて泣きそうで。僕も同じ顔をしていたと思う。
とにかく。部室に戻るまでは全てが必死で、過ぎていく事柄をいちいち確認などしていられなかった。
だから結論。このライブは成功で、ココロも満足いく出来で。
それでいてただ僕がたのしかったのだ。
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