第21話 文化祭にて!

 僕は扉に向き直り、閉まったばかりの扉を開ける。

 職員室から出る時みたいに丁寧に扉を閉めて、くるりと半回転。

 少し前で待っていたココロが軽く手を振って、追いつくように促してくる。

「なんの話ししてたの?」

 並んで歩き始めて直ぐに質問が飛んでくる。来るだろうとは思っていた。

 僕は不自然にならないように、密かに用意していた答えを口にする。

「これからもココロと仲良くしてやってくれって。ココロ、友達少なさそうだから。って」

 少しぎこちなかっただろうか…でも、少しは嘘が上手くなったはずだ。

 …いい意味で。

「ふーん。そっか…」

 少しニヤニヤとし始めていたココロだが、前に向き直った。

 あれ、案外すんなり…

「わかった。そーゆーことにしとくね」

 あぁ、嘘ってバレてるやつだ。一瞬でもこの小悪魔に勝てると思った僕が馬鹿だったようだ。

 

「何を言われたのか知らないけど、そんなに心配しないでいいからね」

 と、帰りのバスでもドキッとするようなことを言われた。嘘を見抜かれただけならまだ仕方ないのだが、内容も結構的を射抜いているようで怖い。本当に、ココロは何者なんだと言いたくなる。

 やっぱり、世の中にはこーゆー頭のキレる人間がいるらしい。

 

 ココロのお母さん、ケイコさんのお見舞いに行ってからだいぶ時間が経って。僕らはいつもの部室で練習していた。もちろん練習曲はサインG。僕らの初めての曲である。初めて練習した時よりも、だいぶいい感じになってきたとは思う。僕も必死について行く状態を脱出して、ココロの動きに合わせて楽しめるくらいにはなった。もちろん、まだ全然上手い訳ではない。

「文化祭。ついに3週間後だねぇ。楽しみ〜」

 3回目の合わせを終わらせた時、ココロが口を開いた。

「そーか、もうそんなに経ったのか。」

「うん。ミライくんも楽しみでしょ?」

 楽譜の確認をしている僕の隣に椅子を持ってきて、ココロが座る。

 それを確認してからはなしを始める。

「僕はそんなにだよ。ココロが勝手にエントリーしたんだから」

 すっかり手馴れた嫌味をぶつける。最近、こうして話すのが日課になっていた。

「あれ?そーだっけか」

 ココロが右手の人差し指を頬にあてて首を傾げるような仕草をする。

 僕はそれに連動して、はぁ。とため息をついて下を向く。

「ごめんって、次からちゃんと話すからって」

 ココロが笑いながら、ペットボトルを渡してきた。それを受け取って、仕方ないね。と、僕も笑いかける。

 この部活?は、なんだかんだで成り立っているのだ。結局部員は2人だし、まだ練習以外の活動はしていない、けど、楽しいし平和なのだ。

 あんなに、学校生活に嫌悪を抱いていた僕でさえそう思う。

 毎日この日常でいいと、そう思う。

 

 なのに、そんな日常こそ簡単に壊れてしまうことも。僕は知ることになる。

 

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